【イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.2「食のサーキュラーエコノミー」~都市で食の地産地消・循環型農業をどう実現する?~
- On 2021年2月9日
2020年1月~3月にわたって開講されている全12回のサーキュラーエコノミー学習プログラム「Circular Economy Plus School」。横浜の地域課題解決プラットフォーム「LOCAL GOOD YOKOHAMA」のスクール事業第一弾として、一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ、そして当社の3社が連携し、開催しています。
今回は、1月13日に行われた第2回「食のサーキュラーエコノミー」座学セッションの様子をダイジェストにてご紹介します。
第1回のイベントレポートはこちら → 【イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.1「横浜とサーキュラーエコノミー」~海外先進事例とともに考える、循環する都市・横浜の未来~
「Circular Economy Plus School」とは
Circular Economy Plus School(サーキュラーエコノミープラススクール)は、横浜市が掲げるビジョン「サーキュラーエコノミーplus」の実現に向けた、地域発のサーキュラーエコノミー(循環経済)学習プログラムです。環境にも人にも優しく、持続可能な循環型のまちづくりに関わりたい人々が産官学民の立場を超えて集い、学び、つながることで、地域の課題を解決し、横浜の未来をつくりだしていきます。
※学習プログラムの詳細および参加申し込みは、Circular Economy Plus School 公式ページより。
登壇者紹介
今村美幸(いまむら・よしゆき):NPO法人アーバンデザイン研究体理事
2005年より、都市再開発における企画開発や事業推進、不動産コンサルティングに従事。2017年11月国内初の人工知能マンションとして地域課題を解決する持続可能な住宅地モデル事業「横浜MIDベース」(横浜市西区)を開発した。また、2014年からまち(団地・マンション)再生「暮らし再生プロジェクト」をブランディングし、空き店舗を活用して「井土ヶ谷アーバンデザインセンター」を創設した。そして、社会課題をIoT、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンなどを活用して新たな商品開発を行う『リビングラボファミリー』や地域循環経済圏を創出する『SDGs横浜金澤リビングラボ』を立ち上げた。
奥井奈都美(おくい・なつみ):アマンダリーナ合同会社代表
2014年夏、青みかん(摘果みかん)との出会いを機に、それまで捨てられていた青みかんの美味しさと商品としての価値を見出す。“もったいない!から、おいしい!へ”の思いから立ち上げた「横浜産青みかん商品化プロジェクト」が横浜市地産地消事業に認定され、2015年より事業を本格化。青みかんを活用した様々な商品を開発。2018年法人化。2019年横浜環境活動賞、2020年横浜市食の3Rきら星活動賞を受賞。?町おこし、地産地消、農福連携、サーキュラーエコノミープラスを形にした地域産品、金澤八味の製造を監修。
桐山智(きりやま・とも):横浜市立瀬ケ崎小学校教諭
SDGsやサーキュラーエコノミーなどの概念を言葉で伝えるのではなく、日々の暮らしや、様々な教科との関連させながら「自分ごと」として捉えられるようカリキュラムマネジメントし、これからの時代を生きる子供たちにとって必要な「繋げて考える力」を街と繋がった学習を通して高めている。
池島祥文(いけじま・よしふみ):横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
農業経済学と地域経済学を専門分野とし、近年では、都市農業を対象に地産地消の空間分析を進めたり、地域経済循環の可視化に取り組んだりしています。
横浜国立大学経済学部 池島ゼミの皆さん
川村出(かわむら・いずる):横浜国立大学大学院 工学研究院 准教授
物質の構造解析に有効な固体NMR分光法を駆使し、膜タンパク質をはじめとする生体分子構造解析の研究を専門としている。最近では、植物性の廃棄物の有効利用を探索し、2020年にコーヒー粕から分離したセルロースナノファイバーの構造を明らかにし、コーヒー粕のアップサイクル的な利用を検討している。
第一部前半:廃棄される海藻を活用した循環型農業と産学連携による地域産品づくり
SDGs金澤リビングラボが取り組むサーキュラーエコノミーPlus
プログラムのはじめに、SDGs金澤リビングラボの発起人である今村さんより同リビングラボの活動について、アマンダリーナ合同会社 奥井さんと横浜市立瀬ヶ崎小学校教諭 桐山さんからは金沢区の地域循環型プロジェクトについてご紹介いただきました。
SDGs金澤リビングラボは、横浜市金沢区で活躍する企業、団体が協働するためのコミュニティを構築し、地元住民や大学なども参加できる共創の場を創出しています。同リビングラボを中心として「地域循環」に重点を置いた地域活性化の取り組みには横浜内外からの関心が高まっています。
今村さん「産官学民の連携による地域循環共生圏を創出しようと、海の公園で処分される海藻の利活用に向けた堆肥化研究から、金澤八味や横浜オリーブなどの地域ブランド商品の開発が今年スタートしました。『地域循環経済』という言葉をよく耳にしますが、本当に地域経済が循環しているのかを横浜国立大学に調査してもらっている点が特徴です。本日は、その中間報告も後ほどあるかと思います。」
中でも高い注目を集めているのが、地域発の名産品「金澤八味」のプロジェクトです。
金澤八味は、唐辛子とその他8種類の素材から作られる香辛料で、地名「金沢八景」にちなんでその名前が付けられました。廃棄予定のアマモ(海中に根をはり育つ海草)を肥料として活用したり、地元農園や学校の協力で原材料を栽培したりと、地域資源を有効活用しています。
プロジェクトはアマンダリーナの奥井さんを中心に2018年に立ち上がり、2020年には「金澤八味」の商品化が実現しました。さらに同年、横浜金沢ブランドとしての認定を受け、2021年1月11日からは、カレーハウスCoCo壱番屋金沢八景駅前の限定メニューとして金澤八味を使ったカレーの販売も行われています。
プロジェクトを立ち上げたアマンダリーナの奥井さんは、これまでの活動を以下のように振り返りました。
奥井さん「コロナ禍の影響で、これまで行っていた収穫や製品づくりのイベント開催が難しくなりました。それでも、ステイホーム期間を有効に使って協力してくださる皆さんと連携しながら各原材料の栽培や収穫を進めています。さらに、2020年度は新たな挑戦として、金澤八味を通した農福連携もスタートしました。金沢養護学校の生徒の皆さんに、授業の一環として唐辛子やしその栽培、収穫した原料の下処理などでお力添えをいただいています。」
そして、金澤八味の製品化に向けた取り組みを奥井さんと共に推進してきた瀬ヶ崎小学校教諭の桐山さん。
瀬ヶ崎小学校では2019年度、『総合的な学習の時間』を使って地域と連携した取り組みに挑戦できないかと検討を行っていたといいます。そんな時、今村さんや奥井さんの「一緒に地域を盛り上げたい」という声がけによって、当時の6年生の児童がSDGs金澤リビングラボと連携して金澤八味のプロジェクトに参画することになったそう。
桐山さん「初めは児童たちも『地域を盛り上げるって何だろう?』といった反応でしたが、そこから金沢区がどんな地域なのか、どんな地域課題を抱えているのか、といった疑問に向き合い始めました。そこから、金沢区や隣接する横須賀市の人口減少の問題など地域課題に気がつきはじめ『自分たちが地域を盛り上げなければ』といった当事者意識が生まれていきました。」
その後、唐辛子やしその栽培にとどまらず、金澤八味のラベルのデザインや販売まで児童たちが自発的に関わるようになり、小学校卒業後もプロジェクトに継続的に関わっている子どもたちもいるといいます。
SDGs金澤リビングラボの詳しい活動については、SDGs金澤リビングラボFacebookページならびにYOKOHAMAリビングラボサポートオフィス ホームページをご覧ください。
地産地消・地域循環の経済効果を可視化する
そして、横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院の池島祥文さんと学生の皆さんからは、横浜市金沢区の地産地消の取り組みとその循環による経済効果に関してご報告いただきました。
はじめに今村さんからお話があった通り、地域活性化に向けた多くの取り組みが存在するにもかかわらず、それらによる実際の経済効果を示す調査は、全国を見てもなかなかありません。横浜市には横浜国立大学をはじめ調査研究機関が立地しており、これは地域の循環型経済の推進における大きな特長の一つとなっています。
池島先生とゼミ生の皆さんは、金沢区の地産地消や地域循環における経済効果を可視化することを目的に、金澤リビングラボや金沢区内の事業者の方々に直接ヒアリングし、人々が地域経済においてどのような役割を担っているのかについて調査を行いました。地域の関係者に何度も話を伺うなど地道な調査の結果、金沢区では、SDGs金澤リビングラボが中心となって地域内にネットワークが構築されていることがわかり、それぞれがそれぞれの立場で「地域の活性化に貢献したい」という思いを持って様々な取り組みが行われていることが明らかになりました。
第一部後半:コーヒー粕からのセルロースナノファイバーの分離とその利用可能性
第一部後半では、横浜国立大学大学院 工学研究院の川村出さんから、コーヒー粕を活用したセルローナノファイバーの研究についてご紹介いただきました。
日本の年間コーヒー消費量は45万トン(2019年)と言われており、これまで廃棄されていた大量のコーヒー粕を今後どのように有効活用できるか、その方法に注目が集まっています。
川村さんの「皆さんは飲み終わったコーヒーの粕をどうしていますか」という受講者への問いかけに対しては、「捨ててしまっている」という回答が目立つなか、「スクラブに利用している」や「防臭剤に利用している」という答えも挙がっていました。
川村さんの研究では、植物の細胞壁を構成している細かい繊維であるセルロースに着目し、同じく植物由来であるコーヒー粕の細胞壁からセルロースナノファイバーを抽出することに成功しました。セルロースナノファイバーは、鉄の5分の1の軽さでありながら、鉄の5倍の強度を誇る繊維である点が大きな特徴で、実用化への期待が高まっています。
例えば自動車や貨物の部品の一部に利用することで自動車の軽量化を進め、燃費削減・CO2排出抑制への効果が期待できます。他にも、生活必需品や化粧品への適用によって化石燃料やプラスチックの削減につながる可能性があるなど、アップサイクルの観点から、日本国内のみならず世界で関心が高まっている分野です。
コーヒー粕由来のセルロースナノファイバーの実用化に向けた課題について、川村さんは次のように説明しました。
川村さん「コーヒー粕に含まれるセルロースナノファイバーの割合は決して多くないうえ、捨てられてしまうコーヒー粕をどのように回収できるかという点が、研究の実用化における今後の課題です。そこで、SDGsが示す17のゴールのうち17番目の『パートナーシップで目標を達成しよう』へのアプローチが欠かせないと考えています。研究機関や製品製造機関などそれぞれが独自でできることには限りがあります。パートナーシップの構築によってお互いのもつ知識や技術を結集することで、食品廃棄物を最も環境負荷の低い方法で有効活用できる仕組みができると良いのではないでしょうか。」
第二部パネルディスカッション:食を通じた循環型コミュニティをどう作る?
第二部では、第一部の内容をもとに、地域内のパートナーシップやコミュニティづくりをテーマに、講師の皆さんとパネルディスカッションを行いました。モデレーターは、横浜市政策局共創推進課の関口昌幸さんとCircular Yokohama編集部の加藤佑が務めました。
はじめに、金沢区内のネットワーク構築においてこれまでに多くの成果をあげてきたSDGs金澤リビングラボのみなさんに、その秘訣について伺いました。
今村さん「SDGs金澤リビングラボでは、まず活動のテーマを決めた上で、それに合わせてアイデアを出しあうというやり方で、立ち上げ当初から課題の共有を進めてきました。」
奥井さん「『餅は餅屋』ということわざの通り、金沢区ではあらゆるステークホルダーがそれぞれの得意分野を生かして活動できているところが、地域の取り組みを活発化させている重要な要素になっていると感じています。」
桐山さん「小学校教育において総合的な学習の時間は、教員による様々な工夫が必要な科目の一つで、それぞれの教員が試行錯誤しながらカリキュラムを練っています。SDGs金澤リビングラボの皆さんは、我々が地域連携の中でやってみたいと思うことを投げかけると、それを実現するためのリソースを提供して下さるため、ユニークな取り組みが実現できているのだと思います。SDGs金澤リビングラボが、地域をつなぐ中心的なプラットフォームとして働いています。その存在は学校にとっても大きいです。」
また、地域循環やその経済効果について地道に調査を続けている横浜国立大学の池島さんは現在抱えている課題や今後の展望についてお話くださいました。
池島さん「地域の経済循環を可視化しようと言っても、まだまだ十分なデータがないというのが正直な現状です。サーキュラーエコノミーの実現に向けては、その循環の仕組みを地域単位にまで落とし込まなければ、その実態は見えてきません。しかし、地域の事業者の皆さんにとっては、売り上げや原材料の産地といった具体的なデータの提供は簡単にできることではありません。今回は学生たちが何度もお話を伺うことで事業者の皆さんが心を開いてくださり、データとして加工できる情報を集めることができました。地域としてのつながりや信頼があってこそ得られる情報であると感じています。」
コーヒー粕由来のセルロースナノファイバーの研究を行っている川村さんからは、研究の実用化に向けた具体的な問題点について共有していただきました。
川村さん「コーヒー粕由来のセルロースナノファイバー実用化に向けた現状の最も大きな課題は、その製造コストの高さだと考えています。特に、コーヒー粕は水分を多く含むため、一般的な木材由来のセルロースナノファイバーに比べ加工のため製紙工場へ運ぶ際の輸送コストが多くかかってしまうのです。とはいえ、少しコストがかかったとしても、2050年のSDGs達成に向けて行動していこうという社会的な動きがあることも確かですので、この数年で具体的な取り組みにどこまで変化が生まれるかが一つの勝負となるかもしれません。」
最後に、モデレーターの関口さんは「サーキュラーエコノミーを実現するためには、地域単位での小さなヒアリングの積み重ね、そして地域全体の様子を可視化するというプロセスが欠かせません。これは、横浜市内だけではなく全国でサーキュラーエコノミーに携わる方々が直面している課題であるとも言えるのではないでしょうか。」と述べ、横浜市金沢区で取り組んでいる食を通じた地域循環の仕組みやその経済効果の調査が全国の自治体にとっても有益なリソースとなることへの期待を示しました。
編集後記
本記事でご紹介したイベントの完全版は、アーカイブ動画としてもご覧いただけます。ご興味のある方は、ぜひチケットをお求めの上ご視聴ください。
そして、続く第3回のテーマは「再エネとサーキュラーエコノミー」です。
横浜市内や他地域で再生可能エネルギーの地産地消、再エネの普及を通じたまちづくりに取り組んでいる方をゲストにお呼びし、サーキュラーエコノミーの前提でもあり、横浜市が「Zero Carbon Yokohama」として掲げる脱炭素社会の実現に向けた具体的な取り組みを学んでいきます。
次回のレポートもお楽しみに!
【「Circular Economy Plus School」申し込み専用Peatixページ】循環型のまちづくりを学ぼう!横浜発サーキュラーエコノミー学習プログラム「Circular Economy Plus School」【1/6~3/24開催】
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※この記事は、Circular Yokohama「【イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.2「食のサーキュラーエコノミー」~都市で食の地産地消・循環型農業をどう実現する?~」を転載したものです。