【提携先インタビュー#01】キズキビジネスカレッジ「お金ではなく、『スキル』を交換。うつ・発達障害専門のビジネススクール生による記事執筆プログラムとは?」
- On 2021年3月4日
こんにちは!ハーチの木原です。ハーチは、株式会社キズキが運営する、うつや発達障害の方の就労支援に特化したビジネススクール「キズキビジネスカレッジ(以下、KBC)」と提携し、「翻訳ライティングプログラム」を行っています。これはスクールの利用者がIDEAS FOR GOODで配信しているニュースの記事作成を担当し、実際に公開するというプロジェクトです。「お金ではなく、互いの持つもの(活躍の場・ライティングノウハウ・英語力・ライティングスキル)を交換しあう」仕組みが特徴です。
今回は、KBCの林田絵美さんにハーチとのコラボレーションについてお話を伺ってきました。
※IDEAS FOR GOODでは、林田さんにKBC立ち上げの経緯やスクールの特徴について伺った過去のインタビュー記事もお読みいただけます。「違いを持ちながら生きる」ことに興味がある方は、ぜひこちらもご覧ください!
▷ 凹凸を持ったまま“上手に”生きる。発達障害を持つ大人のためのビジネススクール「キズキビジネスカレッジ」
Q. ハーチと提携することになったきっかけを教えてください。
この提携は、ハーチ代表の加藤さんと、マザーハウス代表の山崎さんの経営ゼミで知り合い、お互いの事業について話したことがきっかけで始まりました。当時、事業を進めるうちに、生徒のなかに突出して英語力やリサーチ力の高い方がいることに気づきました。彼らはすでに十分な量のインプットを行ってきています。従来KBCで提供してきた「講義」の枠を越えて、彼らが実力を試したり能力を磨いたりできるような「実践的な経験の場」を提供できないだろうか?私はそんなふうに考えていました。
一方、加藤さんは普段から「IDEAS FOR GOODで、海外の価値あるニュースを届け続けたい」そしてそのために「(発達の凹凸や障害などに関係なく)“魅力ある方”と仕事がしたい」と考えられていたようで、何かのかたちでコラボレーションできないだろうかと話が進むことになりました。実は、その時点では、ハーチさんとの提携で、生徒が「経験を積む」「実力を試す」ことができればいいなとだけ考えていたんです。しかし、企画を詰めていく段階で、「生徒が執筆した記事を実際にメディアに掲載しよう」と提案していただきました。あくまでもKBC側がハーチさんで経験を「させてもらう」ようなイメージだったのですが、「スキルの交換」をするあくまでも対等な関係としてプログラムを進めることができているのはとても嬉しいなと感じていますね。
Q.ハーチと提携することで生まれた良い変化は?
プログラムは、参加者たちが自身の「得意なこと」に目を向け、それを「どう活かすか」についても考える良い機会になっていたようです。自分のスキルを認められたこと、「伝わる文章」を書くためのコツや考え方を学べたこともそうですが、やはり「自分の書いた文章が実際に記事として公開された」という経験は大きな自信につながったみたいですね。生徒と企業があくまでも対等な立場にあり、「対話」がベースの丁寧なコミュニケーションが行われているので、生徒がリラックスした状態で実力を発揮し、学ぶことができているように感じています。
また、このプログラムは生徒にとって新鮮な経験となっていたようです。 毎日同じ場所に通って、同じ人とだけ顔を合わせているのは、どんなにやる気のある人でも少し疲れてしまうこともあります。KBCスタッフ以外の外部の方と関わることは新しい刺激になっており、生徒のモチベーションにもなっていたようですね。
プログラムは生徒にとって「キャリアを見つめなおす機会」にもなっていたようでした。参加者の中に、翻訳ライター職への進路を視野に入れていた方がいました。英語力やライティング力は確かでしたが、実際に記事執筆にトライしたり、現役の編集者と話したりするなかで「現実的な選択肢としてライター職」は本当に自分に適しているのか、ということを改めて考えられたそうです。結局、その方はプログラムを通して再認識した自身の英語力やリサーチ力等の強みを、ライターとは違うキャリアで活かしていけないかを模索していきました。
Q. プログラムを進めていくなかで大変なことは何でしょうか?
KBCの生徒はプログラムに参加しながらも就職活動を行っているので、その両立をどうサポートするかには悩んでいますね。「就職活動をする」「適職を探す」──この2つの作業は似ているようで違うものだと思うんです。就職活動は、企業を「探す・調べる」のがメインですが、適職を探すには「やってみる」作業が必要になります。実際に試してみて「これは合っていそうだな」「これは違うな」とわかっていくわけですね。
このプログラムは、利用者にとって自身の「適性」と向き合う良い機会になっているようです。プログラムを進める上では「自分の能力やキャパシティを正しく把握する」「優先順位を付け、工夫しながらタスクをこなす」といった作業が重要になってきます。それは、自身の「得意なこと」をうまく活かす方法を探ることにつながっていると思うんです。生徒にとって、このプログラムが、自身の適性や能力の活かし方を見つけられる良い機会になるように、これからもサポートしていきたいと思います。
Q.プロジェクトを継続していくうえで、今後改善していきたいポイントは?
プロジェクトの位置づけや見せ方、でしょうか。プロジェクトの1期目に参加した生徒の文章力や英語力がとくに高かったので、他の生徒たちにとって参加のハードルが高くなっているようなんです。プログラム自体は「対等なスキル交換」をテーマにしているので、ある一定以上の英語や執筆の実力はもちろん必要ではありますが、あまりにも高いハードルのように感じられると、参加を躊躇させてしまうかもしれません。ハードルをどのように見せるか、というのが難しいですね。
Q.今後、ハーチと一緒にやってみたいことはありますか?
今後は、今すぐにKBCを利用したい人だけではなく、「いつかキズキを利用するかもしれない人」のためになる情報発信ができたらいいなと思っています。現状では、直近でKBCの利用者となりうる方──つまり発達障害の特性で「今この瞬間」困っている人にリーチするような施策をたてることがほとんど。しかし、今うまくいっている人でも周囲の環境や自分の立場が変化することで、困りごとが出てくるかもしれませんよね。今はインターネットで様々な情報が探せるので、同じように悩む人を見つけて安心したり、参考になるライフハックを見つけたりできるので、便利だと思います。
しかし、情報が溢れているからこそ、不確かな情報や悪意のある情報に振り回されることも少なくありません。ですから、今後は、本当に役に立つ情報をまとめて、直近でKBC利用者になりえる人だけでなく、発達障害による特性で悩む様々な人へ届けられるようなアクションを一緒に起こせたらいいなと思っています。
このプログラムは、お互いが普段リーチできていない層の人たちにアプローチする、良いきっかけになっているのではないかと思っています。例えば、 KBCのホームページを訪問してくださった、問い合わせをしてくださったという方のなかには、「IDEAS FOR GOODの記事でKBCを知った」という方がいらっしゃいます。また、このプログラムはKBC事業所内でも話題になっていて、「自分たちの仲間が記事を書いているから」とIDEAS FOR GOODを読み始めたという生徒も少なくないんです。
これまでキズキ/IDEAS FOR GOODを知らなかった人が、お互いを経由して、新たな関係者になっている。それって素敵ですよね!今後も、ハーチさんと様々なコラボレーションができたら嬉しいな、と思っています。
編集後記
生徒のみなさんそれぞれの「得意」のおかげで、IDEAS FOR GOODのコンテンツがより豊かになる。そして、私たちがお伝えしたライティングのコツや考え方が、生徒の「得意」を活かす手助けとなる──そんなスキルの交換が行われる現場には、いつもポジティブなパワーが溢れているなと感じます。参加者の方から「自信がついた」「自分の強みや活かし方が分かってきた」「就職活動にも役立った」といったお声をいただけたときは、このプログラムがきちんとお互いにとって良いものになっているのだなと、思わず目頭が熱くなったのを覚えています。
KBCさんと業務提携を始めてから、約1年。スタッフの皆さんや、参加者の方と都度話し合いながら、一緒によりよい進め方を模索してきました。林田さんとは、顔を合わせるたびに「あんな取り組みができないだろうか?」「こんなことをやってみたい!」と話し、更なるコラボレーションに想いをはせています。これからどんな「わくわく」を一緒に生み出すことができるのだろう、と今からとても楽しみです。