
【ワークショップレポ】社会課題解決の報道の質を高める「ソリューションジャーナリズム」を学び、実践する
- On 2025年4月22日
- IDEAS FOR GOOD, サステナビリティ, ジャーナリズム, ソリューションジャーナリズム, デジタルメディア, ワークショップ, 社内ワークショップ
当社では、4月初旬に「ソリューションジャーナリズム」をテーマとした社内ワークショップを開催しました。
開催のきっかけは、当社が運営するWebメディア「IDEAS FOR GOOD」編集部の戸沼が、アメリカの非営利団体であるSolutions Journalism Network(ソリューション・ジャーナリズム・ネットワーク)のトレーナー育成プログラムに参加したこと。5日間のプログラムには、世界中から20人のメディア専門家が参加していました。エジプトの新聞記者や、イギリスのメディア学教授、インドのラジオ放送局担当者など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが、ソリューションに焦点を当てた報道のあり方について共に学び、それぞれの職場に持ち帰って実践する方法を考えました。
今回の社内ワークショップは、その内容を1時間に凝縮して実施したものです。日々配信するコンテンツの質を高める方法について、対話しながら考える時間となりました。
学び編:ソリューションジャーナリズムとは?
はじめに、戸沼からソリューションジャーナリズムについてのインプットを行いました。
ソリューションジャーナリズムとは、社会の問題そのものだけでなく、その対応や対策について報じるジャーナリズムを指します。この言葉を提唱するSolutions Journalism Networkは、ソリューションベースの報道の基礎として、以下の4つの柱を掲げています。
- Response(レスポンス)
問題になっている事象への対応や取り組み。誰か、その問題に取り組んでいる人はいるか? - Insight(インサイト)
その対応や取り組みから、他の人が得られる洞察。その事例から、他の人は何が学べるのか? - Evidence(エビデンス)
その対応や取り組みが、効果的であることを示す証拠。実際インパクトはどれくらいなのか? - Limitations(リミテーション)
その対応や取り組みの制約や課題。まだできていないことは何か?

ワークショップ当日のスライドより抜粋
プログラムのなかで団体が伝えたのは、「ソリューションジャーナリズムとは、単なるグッドニュースや英雄崇拝(個人の成功例)を報道することではない。社会システム自体の変化について論ぜよ」ということでした。
具体例を挙げると、一人の優秀な医師がたまたま訪れた先で誰かの命を救った、というストーリーではなく、慢性的な病院の病床数の不足を韓国ではどのように解決したのか、という報道をするなど、問題に対する個別の解決事例というよりは、構造自体の改善に取り組んでいる事例を取り上げ、他の環境にいる人にも活かせるような洞察を与えることがメディアにとって大切だと、Solutions Journalism Networkは語ります。

ワークショップ当日のスライドより抜粋
当社が運営するメディアでも日々行っている、社会課題解決やサステナビリティに関する情報発信。どうすれば、記事の内容を「単なる個別の事例紹介」ではなく「行動をしたいと思っている人にとってより役立つ情報」に昇華できるのかについて、複数のグループに分かれてディスカッションを行いました。
実践編:もし「役に立つ」を基準に記事を作るとしたら?
グループディスカッションでは、当社のメディアで実際に配信されたニュースを議題に、ソリューションジャーナリズムの考えに基づいてコンテンツを見直すとしたらどうなるのかを話し合いました。今回取り上げた事例の一つは、IDEAS FOR GOODのニュース記事の「週に25個以下しかバッグを作らないスタートアップ」。環境負荷が低い商品を一つひとつ丁寧に作っているイギリスのブランドについてです。
議論では、「自分が読者だったら、もっとここが聞きたい」「ここを深掘りしたらさらに他の人の役に立つ記事になりそうだ」という意見が以下のように出ました。
- 「週に25個以下」の数の根拠はあるのか
- 25個以下しかバッグを作らないことで、実際どれほど環境に良いと言えるのか
- ビジネスモデルとしてどう持続していくのか。生産数に対する適正な価格の決め方はあるか
- 再現性はあるか。他の国、地域で同じようなビジネスをするときに真似できることはあるか
- 海外への輸出の際の環境負荷は考慮できているのか
一方で、「インタビューでは確かに深掘りするべきだが、短くすぐに読める文字量のニュースとしては十分役割を果たしている」「結局誰に読んでもらいたいかによって上記の問いも変わる」という意見も出ており、ソリューションジャーナリズムの要素を入れ込むことが記事執筆の質を上げる万能の解決策ではないという示唆もありました。
私たちはソリューションジャーナリズムを日々の仕事に取り入れられるのか
ワークショップ終了後のアンケートでは、社内参加者に「ワークショップで学んだことのなかで、直近で実践してみようと思うこと」を聞いてみたところ、「インタビューの準備の時点でクリティカルに考えるプロセスを怠らない」「システムを語ることを、記事執筆以外の業務でも意識する」などの回答が集まりました。
さらにその1週間後のフォローアップアンケートでは、「実践できた」と回答した人も、「なかなか忙しくて何もできなかった」と回答した人もいましたが、ソリューションジャーナリズムの4つの柱は、記事のネタを選ぶときや、内容について深く考えるときの視点としては良いのではないでしょうか。実際、ワークショップを終えて「経済的な持続可能性などインタビューでは少し聞きづらいと思われる質問も、取材相手と良い関係性を保てていれば難しくはないかもしれない」と前向きな回答をしたメンバーもいました。
Solutions Journalism Networkで学んできた視座を共有する勉強会は、社内だけに留まらず、他のメディア様や情報発信をしている方向けにも可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。
【参照サイト】Solutions Journalism Network