人と自然、個人と組織のリジェネラティブな関係を描くアートワークショップ「My name is nature」
- On 2021年4月15日
- ワークショップ
こんにちは、ハーチの加藤です。今日は、昨年11月に開催した箱根合宿の中で行ったアートワークショップ「My name is nature」についてご紹介したいと思います。
Music…As Leaves Fall by Ikson
Link:https://soundcloud.com/ikson/as-leaves-fall-free-download
テーマは「リジェネ―ション」
今回のワークショップのテーマは「リジェネレーション(再生)」です。気候危機や資源枯渇、生物多様性の喪失など様々な環境問題が深刻化するなか、昨今では、人間の活動による環境への負荷をできる限り減らすという “Less Bad(マイナスをゼロに)” の考え方に基づく「サステナビリティ(持続可能性)」の発想ではもう不十分であり、人間の活動を通じて環境そのものが再生されていく”More Good(ゼロをプラスに)”のあり方を目指す「リジェネレーション(再生)」の考え方が注目を浴びるようになってきています。
「サステナビリティ」という概念は、人間と自然を切り分けて考え、自然を資源とみなして持続可能な形で開発・利用していくことを目指すのに対し、「リジェネレーション」は、人間を自然の一部として捉え、自然というシステムの内側から全体に働きかけていくというアプローチをとります。
人間と自然を切り分け、サステナビリティの概念を突き詰めていくと、究極的には自然にとって環境破壊ばかりしている人間はいないほうがよいのではないかという極論に行き着いてしまいます。しかし、リジェネレーションの概念に基づくと、人間も自然の一部であり、人間=自然となるため、自然を大事にするということは人間を大事にすることでもあるという思想に行き着きます。その意味で、リジェネレーションは私たち人間にとっても優しい考え方だと言えます。
人間という存在を、様々な生物とつながり、共生し、循環しあっている自然の一部として捉え直すことで、そのつながりの力を活かして全体がよりよい方向へと変わっていくことを目指すのがリジェネレーションの発想なのです。
個人と組織のリジェネラティブな関係を築いていく
ハーチでは、人間と自然がリジェネラティブな関係になるのと同様に、個人と組織もリジェネラティブな関係を構築することを理想としています。
個人と組織が、どちらかが損をするとどちらかが得をするというゼロサムの関係になるのではなく、個人が自己実現を目指すことで、自然と組織全体の目的が実現していく。組織が組織としての目的の実現を目指すことで、自然と個人が自己実現できるようになる。このように、個人と組織を切り分けて考えるのではなく、それぞれがお互いにつながりあった共生と循環のシステムの中でともに繁栄できるようなあり方を目指しています。
しかし、このようなリジェネラティブな関係性は目に見えるものではないため、頭では理解できてもなかなか実感することは簡単ではありません。そこで、少しでも私たち一人一人が自然や他の人々とつながりあっており、その大きな循環のなかで活かされていることを実感できればと思い、今回のワークショップを企画しました。
My name is natureに込められた意味
今回のワークショップのタイトルは「My name is nature(私の名前は自然です)」。私たち人間も自然の一部であり、むしろ人間とは自然そのものなのだということを一番分かりやすく教えてくれるのが、私たちの名前です。
私たちの名前を漢字で書いてみると、実は一人一人異なる私たちの名前が、多くの自然を表す文字からできていることに気づきます。例えば私の名前に含まれる「藤」という漢字には、「藤」はもちろん、「草」「月」「水」など、様々な自然を表す漢字が含まれています。そしてこれらの漢字の成り立ちは、元をたどれば自然を表す象形文字となります。自分の名前という身近な存在にも、人間が自然の一部であることを示す手がかりがあるのです。
少し話が脱線しますが、そもそも漢字が日本に伝来する前から、日本人は人間を自然の一部とみなしていました。漢字が伝来する前の日本古来の言葉である大和言葉には、文字がありませんでした。そのため、大和言葉においては音(おん)が意味を表します。この音に注目すると、かつての日本人が人間と自然と切り分けて考えていなかったことが分かります。
例えば、顔のパーツである「目」「鼻」「耳」「頬」「歯」は、それぞれ「芽」「花」「実」「穂」「葉」と同じ語源だと言われています。私たちの「鼻」は顔の先端についていますが、「花」も同様に植物の先端に咲くものです。古来の日本人には人間と自然を切り分けて考えるという発想そのものがなかったのでしょう。
自分が持つ「名前」を通じて、自分と自然とのつながりを考え直す。そこで、今回はハーチの一人一人が持つ「名前」を使ったワークショップを実施しました。
アートワークショップの流れ
ワークショップは、下記の流れで進めました。
1.自分の名前の中に自然を見つける
まず、参加者全員が、自分の名前を漢字で紙に書きます。そして、その中に含まれている自然を表す文字を見つけ、書き出しました。
2.自分の名前を、絵で表現する
自分の名前に含まれる自然を見つけたら、次は、それらを漢字ではなく絵で表現してみます。ここでは、まず簡易的にペンで紙にラフスケッチします。自分という存在を、自然を表す絵で表現する。多くのメンバーにとっては初めての体験で難しさもあったようですが、そこから立ち上がってくる自然の絵は、まさに一人一人の個性そのものです。
3.その絵を書くのに必要な素材を、自然の中から見つけてくる
絵のラフスケッチが完成したら、次はいよいよ絵を完成させるための絵具と筆づくりです。絵具と筆は、全て自然の中から見つけてきます。自分の絵を完成させるのに必要な色彩を作れそうな素材を、森の中を散策しながら探します。木の枝は筆となり、草や落ち葉はすりつぶすことで絵具となります。地面の土も、きれいな茶色の絵具となります。みんな思い思いに自分を表現できる素材を探し回っていました。
4.自然素材で絵具づくり
素材を集めたら、次は絵具づくりです。すり鉢を用意して、水を使って拾ってきた葉っぱなどをすりつぶし、自然の色彩を作ります。植物の繊維をすりつぶして細かくするのには意外と力がいるため、苦戦していたメンバーもいました。
今回はワークショップの時間の関係で、予め用意しておいた絵の具も使いました。フードロスとなってしまう玉ねぎの皮を煮詰めて作った絵の具、ロスフラワーをすり潰して作った絵具など、全て自然素材のものを用意しました。
5.みんなで一つの絵を描く
絵具が作り終わったら、いよいよ絵を描く時間です。最初のワークでは、一人一人が自分の名前を表す自然をペンでスケッチしましたが、最後は、全員が協力して一つの大きな自然の絵を完成させます。
手を筆にして絵具を塗ってみたり、土をまいてみたり、枝を置いてみたり、それぞれが思い思いの形で自分の名前に含まれる自然をキャンバスに表現していました。
最終的に完成したのがこちらの絵です。この絵には、参加したメンバー全員の名前が含まれており、全体として一つの自然が完成しています。今回はコロナ渦ということもあり全員のメンバーが参加することは叶いませんでしたが、まさにこの絵こそが、ハーチという組織を表す自然となっています。
自然という大きなシステムのなかでメンバー一人一人もお互いにつながりあった関係性の中で存在していることをアート作品として表現しました。
「つながり」という可能性
今回のワークショップを通じてチームで共有したかったことは、人と自然、人と人はお互いにつながっており、その中で活かされあっているということ。
自分という人間は、自然や他の人からのインプットでできており、インプットしたものを自分なりに消化して、また外にアウトプットしていきます。そのアウトプットは誰かのインプットとなり、そしてその人のアウトプットに変わっていく。このようにお互いがつながりのなかであらゆるものを循環させながら生きていると考えると、自己と他者、自己と全体の境界線はとたんに曖昧になっていきます。
一方で、このつながりの存在に気付くと、私たちは誰もが等しく自分や世界の未来をよりよい方向へと変えていける大きな力を持っていることにも気づきます。自分が誰かによいインプットをすれば、それはつながりのなかで循環し、いずれめぐりめぐって自分によいインプットとして戻ってきます。
この循環をイメージすることで、自分を幸せにすることは社会を幸せにすることであり、逆に社会を幸せにすることは自分を幸せにすることだということがよく分かります。
その意味で、つながりとは大きな力であり、可能性でもあります。どうせつながり合っているのであれば、一人一人がその力を使ってともにお互いの未来をよりよい方向へと変えていく。それは、ハーチが目指す「Regenerative Media Company(社会をもっと素敵な場所にするメディア・カンパニー)」というビジョンそのものでもあります。
ワークショップを通じて、改めてハーチという会社そのものが活動を通じてメンバー一人一人、そして世界全体の未来をよりよい方向へと変えていけるリジェネラティブな組織でありたいと強く思いました。
最後に、ワークショップの様子を素敵な動画に仕上げてくれた Masato Sezawa に心から感謝します、本当にありがとう!
Movie: Sezawa Masato
Art Direction: Copen