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【IDEAS FOR GOOD】イベントレポート「気候変動を『自分ごと』にするには、残業をなくせ?デンマークでの自然な行動変容の仕掛け(Climate Creative Cafe)」

【IDEAS FOR GOOD】イベントレポート「気候変動を『自分ごと』にするには、残業をなくせ?デンマークでの自然な行動変容の仕掛け(Climate Creative Cafe)」

  • On 2026年3月4日
  • Climate Creative, Climate Creative Cafe, IDEAS FOR GOOD, クリエイティブ産業, サステナビリティ, デンマーク, 二酸化炭素, 気候変動, 脱炭素, 脱炭素社会

当社が運営する、社会を「もっと」よくするためのアイデアを集めたウェブメディア「IDEAS FOR GOOD」では、創造的なアイデアやコミュニケーション、ビジネスモデルの創出を通じて気候危機に立ち向かうプロジェクト「Climate Creative」を株式会社メンバーズとともに実施しています。Climate Creative Cafeでは、気候危機に関する課題解決に向けて、さまざまな業界や組織・立場における1人1人のクリエイティブなアプローチに着目し、参加者の皆さんと共に実際のアクションへとつなげることを目指しています。

本レポートでは、1月に開催されたClimate Creative Cafeのイベントレポートを紹介します。

※本レポートは、IDEAS FOR GOOD「気候変動を「自分ごと」にするには、残業をなくせ?デンマークでの自然な行動変容の仕掛け」からの転載です。

気候変動を「自分ごと」にするには、残業をなくせ?デンマークでの自然な行動変容の仕掛け

「気候変動は身に迫っている」「何かしなければならない」。そう分かってはいても、連日のように流れる異常気象のニュースや断片的に流れてくる情報に、どこか無力感を感じる人も多いはず。

「自分一人で何ができるのか」「生活を制限して我慢しなければならないのか」という不安が、行動へのブレーキになっているかもしれません。

本記事は、創造的なアプローチで気候変動を解決するClimate Creativeが開催したオンラインイベント「気候変動を『知っている』から、意見の違いを超えて『動ける』へ。アクションを内在化する学びの場の作り方」の開催レポートとしてお届けします。(過去のイベントレポート一覧はこちら)

北欧・デンマークに渡って25年、文化翻訳家として活動するニールセン北村朋子さんは、こうした「知識はあるのに動けない」というジレンマを解消するヒントが、デンマークの社会システムと人々のマインドセットにあると言います。単なる義務感ではなく、楽しみながら社会を再構築していく。デンマーク流のアプローチから、私たちが「自分ごと」として一歩を踏み出すための知恵を探ります。

話者プロフィール

ニールセン北村朋子さん(Cultural Translator/文化翻訳家)

2001年よりロラン島在住。Cultural Translator/文化翻訳家。DANSK主宰。一般社団法人AIDA DESIGN LAB理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会アドバイザー。京都芸術大学通信教育部「食文化デザインコース」講師。ジャーナリスト、コーディネーター、アドバイザー。講演、ワークショップ、ラーニングジャーニーなどを企画、実施。

「そもそも」を知ることが羅針盤になる

「デンマークで暮らしていると、最新のものを含めた気候変動の情報を取り入れることが非常に重要だなと感じます。それが分かると、国や自治体の政策も変わってくるのです」

ニールセンさんは冒頭、断片的なニュースではなく、気候変動の土台となる地球のメカニズムや最新の知見に対する理解が、具体的なアクションの前提として重要であると語りました。

特に押さえるべきポイントとしてニールセンさんが強調するのは、北極の氷と海流の関係。北極の海に浮かぶ氷は、太陽から降り注ぐ熱や光の約80%を跳ね返す「天然の反射板」の役割を担っています。しかし気候変動に伴い、2017~2021年の北極海の平均海氷域面積は、1979〜1983年の平均と比べて約280万平方キロメートル減少しているのです(※1, 2)。

さらに注目すべきは、北半球と南半球の空気が混じり合わないこと。排出量の多い北半球で二酸化炭素が溜まり、その温室効果で氷が溶けると、周囲の海水の塩分濃度が下がる「淡水化」が起こります。これが海水の比重を変え、地球全体に熱を運ぶ海洋大循環の機能を低下させる懸念があるのです(※3)。

ニールセンさん投影スライドより(画像出典:海洋大循環とは?わかりやすい概要とメカニズム、観測方法|NTT)

こうした科学的メカニズムを知る機会が社会にあるからこそ、デンマークでは痛みを伴う野心的な政策であっても一定の支持が得られていると、ニールセンさんは捉えているそう。例えば、近年次のような政策が始まっています。

  • 世界初の農業への二酸化炭素税:主要産業である豚肉や乳製品の生産に対し、2030年から課税することが決定しています。
  • 国土の再デザイン:全農地の15%を森林や湿地に戻し、自然のサイクルを回復させる大胆な計画が進んでいます。

▶ 参考記事:IDEAS FOR GOOD「世界初、家畜の炭素税を導入へ。デンマークが進める食のグリーン戦略とは」

政策が必要とされる背景やメカニズムを正しく知ることは、単なる恐怖心を超え、社会を変えるための施策に対する納得感を生み出すのです。当たり前のようですが、政策の背景やメカニズムを理解するための機会や時間を、社会として確保することが重要となりそうです。

社会を動かす、デンマークの「無理のない」設計

環境対策と聞くと節電や節水などの「我慢」を想像しがちですが、デンマークのデザインはその逆を突きます。

例えば街の設計では、我慢を強いるのではなく、心地よさを優先しています。環境負荷の低い移動手段として自転車を推奨するべく、サイクリストが心地よく走れるよう、自転車の専用道路は車道よりも幅を広く設計。時速20kmで走れば一度も赤信号に捕まらない「グリーン・ウェーブ」システムなども導入しています。

自転車が連なる朝の通勤通学は日常の風景|Image via Shutterstock

「政府が『やりなさい』と言うのではなく、国民が『そっちの方が楽しいよね』『気持ちいいよね』と自然に思える形に仕向けていくデザインがすごく多いです。だから、新しいものも選びやすくなるのだと思います」

強制ではなく、心地よさや利便性を環境行動に結びつける。この視点の転換が、持続可能な社会へのハードルを下げています。

分断を乗りこなす「民主主義の筋肉」と好奇心

こうした行動の根底には、世の中の情報を読み解く力と、多様な他者と対話する力、すなわち「民主主義の筋肉」が必要だと、ニールセンさんは語ります。

デンマークでは、ジャーナリストは専門教育を受けた者だけがなれる職業であり、権力を監視する「民主主義の第4の力」としての自負が徹底されています。教育現場でも、中学生から情報の一次ソースを確認する訓練を受け、SNSの情報を鵜呑みにせず、情報の透明性を評価する力を養うのです。

このように民主主義を単なる理念にとどめない考え方は、民主主義に必要な力を“筋力”と捉えるデンマーク発のプログラム「デモクラシー・フィットネス」にも発展。これは、傾聴力や反対意見を表明する力など、10種類の筋力を鍛えるワークショップです。

このワークショップ内、そしてデンマークでも大事にされているのは、相手を否定するのではなく「なぜそう思うのか」という好奇心を持って接することだといいます。この姿勢が、気候変動対策においても、意見の違いを超えて共に変化を起こすための基盤となっているのでしょう。

「デンマークは組織内の文化としてヒエラルキーが薄いので、肩書きで物事を考えるというより、『あなた自身はどう思うの?』と聞かれることが本当に多いです。『会社としては』よりも、ほとんどの人が『自分個人はどう考えるか。だから会社でもこうしよう』というように組織内でも考えていると思います」

最強の環境アクションは「定時退社」?ルールを作るための余白と遊び

気候変動対策のために、今私たちができることは何か。ニールセンさんが提示する最も意外で、かつ日本社会にとって挑戦的な答えは「残業をやめて休むこと」です。

ニールセンさんは、社会との関わり方には「ゲーム(Game)」と「プレイ(Play)」の2種類があると言います。ゲームは、誰かが決めた既存のルール(現在の経済システムなど)の中で勝敗を競うこと。プレイは、状況に応じて、自分たちで新しいルールそのものを作っていくこと。

気候変動という前例のない「厄介な問題」に立ち向かうには、これまでの経済ゲームに従うのではなく、新しい社会のルールを自ら発明する「プレイ」の感覚が不可欠であるといいます。

「本当の学びはゲームではなくて、プレイの方の遊び。自分たちがルールを作れるような状況で遊ぶことが、結果的に学びになっていく。 こういうルールもありだなとか、この人数とメンバーだったら何ができるかと考えることで、遊びの中から学びを得ることができます」

登壇いただいたニールセン北村朋子さん

しかし、毎日残業に追われ疲弊していては、創造的なルール作りは実践できません。デンマークの人が市民活動や対話に積極的に参加できるのは、仕事が時間通りに終わり、心と時間に「余白」があるからなのだそう。

「気候変動がどういうメカニズムで起こってるのかっていうのを詳しく知ろうとするのはすごく大事で、実際に自分たちの街にはどういうことが起きるのかなどをシミュレーションする機会を作ることも重要だと思います。

でも、市民がそれに参加するためには、やっぱり仕事がきちんと定時で終わり、土日に休めることも大事。まずは残業せず、休むこと。そこから学びの場を作る。特に日本の場合、学びの場が作れるような環境を整えることが最初の一歩かなと思います」

「休むこと」や「定時に帰ること」は、単なるセルフケアではなく、民主主義に能動的に参加し社会のルールを再構築するための、政治的・環境的アクションの下準備なのです。

未来をプレイフルにするための問いかけ

気候変動への対策は、決して自分を追い込む「苦しい義務」ではありません。それは、私たちがより健康に、より楽しく、より良く生きるために社会をアップデートしていく、極めてクリエイティブな「再構築」のプロセスです。

科学的なメカニズムを知り、心地よいデザインを選び、対話を楽しみ、そして何より自分自身の生活に「余白」を取り戻すこと。そこから、新しい未来を創るためのプレイフルなルール作りが始まります。

あなたが今日、社会の新しいルールを描く余白を作るために、手放せることは何ですか?その小さな「休み」が、結果として地球の未来を書き換える大きな一歩になるはずです。

※1 北極海の海氷消滅で地球温暖化が加速化の危機!? 地球全体に与える影響と新たな航路の可能性|環境省
※2 北極の海氷面積は2025年1月〜9月では458万〜約1400万平方キロメートル|2025年9月 北極海の海氷域面積が年間最小を、南極海の海氷面積が年間最大を記録|JAXA
※3 大西洋の海洋循環、今世紀半ばにも停止か「早ければ2025年」|CNN

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