本文へ移動
Harch AI Lab AI Learning & Research Mediapowered by Artiql Inc.

「この資料、AIに貼っていい?」と迷ったら 生成AIに入力しない情報の例と、学習に使わせない設定

来週の打ち合わせの前に、取引先から受け取った提案書の要点をAIにまとめさせたい。学習に使われない設定にしてあるから問題ないはずだと思いながらも、提案書をAIに貼り付ける手前で迷ったことはないだろうか。

学習に使うかどうかの設定とは関係なく、生成AIに入れた内容が残っていた例がある。The New York Times などに訴えられた OpenAI は、2025年に裁判所の命令を受け、ChatGPT の個人向けプランと Team の会話を、利用者が削除したものも含めて期限なく保存していた。会話を学習に使うかどうかの扱いは、命令で変わらないと説明している。命令は2025年9月26日に終わったが、OpenAI は同年10月22日の時点でも、4〜9月の利用者データの一部を法務とセキュリティの限られた担当者だけが扱える形で保管し続けていた。ChatGPT の Enterprise と Edu の契約者は、命令の対象外だった。

学習を止める設定にしてあっても、入力した情報が残らなくなるわけではない。資料をAIに貼るときは、学習の設定より先に会社のルールと取引先との約束を確かめておきたい。

この記事では、入力する前に確認したい情報や手順を紹介した上で、ファイルや会議の記録をAIに入力するときに紛れ込む情報、学習しない設定にしても生成AIに残るデータなどを紹介する。

社内ルールでは、どの生成AIにどの情報まで入れてよいかを見る

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2025年1月に国内企業の情報システムやリスク管理などの部門の1,200人に尋ねた調査では、業務での生成AIの利用に何らかのルールを定めているという回答が52.0%を占めた。

生成AIの利用にルールを定めているという回答の内訳は、使ってよいとするものが全体の25.8%、使ってはならないとするものが26.2%だった。使ってよいとする25.8%は、誰でも使える外部の生成AIに公開情報だけを入れてよいとする14.8%と、社内に閉じた環境の生成AIなら秘密情報も含めて扱ってよいとする11.0%に分かれる。

業務での生成AIの利用ルール国内企業の情報システム・リスク管理などの部門の1,200人への調査。回答者全体に占める割合
26.2%48.0%
使ってよい25.8%
誰でも使える外部の生成AIに、公開情報だけを入れてよい14.8%
社内に閉じた環境の生成AIなら、秘密情報も含めて扱ってよい11.0%
使ってはならない26.2%
何らかのルールを定めているという回答以外48.0%
「何らかのルールを定めているという回答以外」の48.0%は、100%から「何らかのルールを定めている」52.0%を引いた編集部の計算。調査期間は2025年1月23〜31日。
出典:IPA「「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」報告書の公開」(2025年8月29日)

社内のルールを確認するときは、「生成AIを使ってよいか」だけでなく、どのAIに、どの情報まで入れてよいと書いてあるかを見ることが大切だ。社内のルールが見当たらないときや、目の前の資料をどう扱うか読み取れないときは、AIに貼る前に情報システムやセキュリティの担当者に尋ねておくと良いだろう。

生成AIに資料を貼る前に確かめる順番会社のルールから確かめ、サービスの扱いは後に回す
1
会社のルール会社が使ってよいと決めたAIか。個人のアカウントで使っていないか根拠:IPAは解説書で、許可していないAIサービスの利用の禁止や、個人のアカウントでの業務利用の制限を対策に挙げている
2
預かったときの約束誰から、どんな約束で預かった情報か。取引先の資料なら、まず取引先との約束根拠:総務省・経済産業省はガイドラインで、法令で定められていなくても、契約で情報の利用が禁じられる場合があるとしている
3
サービスの扱い使うサービスが、入れた内容をどう扱うか根拠:個人情報保護委員会は注意喚起で、生成AIサービスの規約やプライバシーポリシーを確かめ、入れる情報の中身を踏まえて判断するよう呼びかけている
4
判断がつかないときそれでも判断がつかないなら、個人情報や機密情報を外した形で入力できないか根拠:デジタル庁はガイドラインの利用ルールのひな形で、判断がつかない場合は、個人情報を含まないプロンプトにするよう定めている。総務省も教材で、個人情報や機密情報を生成AIに入力すると情報流出のリスクがあるとしている
出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書[組織編](2026年3月12日公開)
総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編(2026年3月31日)
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)
デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」(2026年6月12日)
総務省「生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~」教材(ver1.0、2024年3月)
以上をもとに編集部作成

取引先の資料は、秘密保持契約の条項を確認する

取引先から預かった資料は、会社のルールに加えて、取引先との約束で扱いが決まる。経済産業省が2025年2月に公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は、契約の中身によってはAIへの入力が秘密保持義務に反するおそれがあると注意を促している。

個人情報保護法や秘密保持契約は、一般に、情報を「第三者」に渡すことを禁じている。ただし、生成AIの提供会社を「第三者」として扱うかどうかの線引きは、法令や契約ごとに異なるのが通常だ。経済産業省の契約チェックリストの例では、AIへの個人データの入力を、自らの学習などに使わない提供会社への取扱いの委託として整理できれば、個人情報保護法には違反しないと言える場合がある。AIへの入力を委託として整理できても、秘密保持契約に委託先を「第三者」から外すような例外の定めがないと、AIに入れたこと自体が違反になりうる。

「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」では、入れた情報が学習に使われると、モデルに一度取り込まれた情報を後から取り除くのは一般に難しいと指摘している。入れた内容が学習に使われないサービスなら、リスクが下がることも少なくないが、モデル学習や漏えいが起きないかは提供会社の運用やセキュリティ次第なので、入れる中身を慎重に判断することが重要だとしている。

取引先から預かった資料だけでなく、自社が社外に出さないよう管理している情報も、生成AIの提供会社に渡ると営業秘密として守られなくなることがある。2025年3月に改訂された経済産業省の「営業秘密管理指針」は、社内で秘密として管理している情報を生成AIに使い、それが社内でAIの出力に出てきただけでは、秘密としての管理は否定されないとの考えを示した。ただし、秘密として管理している情報が生成AIの提供会社など社外の第三者に渡るときは、秘密としての管理が否定されることもあり得るとしている。

情報の種類 身近な例 扱いを決めるもの 貼る前にすること
個人情報 名刺の表、顧客リスト、氏名と結びついた評価コメント、ネットで公開されている人の情報 個人情報保護法、個人情報保護委員会のガイドライン 会社の規程で、会社が認めたAIに入れてよいかを確かめる
要配慮個人情報 健康診断やストレスチェックの結果、病歴 同上。取得や第三者への提供に原則として本人の同意が要る その部分を外す
マイナンバー 扶養控除等申告書、源泉徴収票 番号利用法。本人の同意があっても利用目的を超えて使えない その部分を外す
取引先から預かった秘密 提案資料、打ち合わせで聞いた話 取引先との秘密保持契約 秘密保持の条項で、開示してよい相手と使ってよい目的を見る
社外秘(営業秘密) 生産方法や販売方法 不正競争防止法、会社の規程 会社の規程で、入れてよいAIかを確かめる
パスワード・認証情報 設定ファイル、エラー画面のスクリーンショット 会社の規程、総務省の勧め 丸ごと貼る前に、残っていないかを見て消す

取引先から預かった資料は、AIの設定を見る前に、秘密保持契約を開き、社外の誰にまで渡してよいかを定めた条項を読む。条項を読んでも分からなければ、取引先の担当者か社内の法務に聞いてから資料をAIに貼る。

ファイルや会議の記録はどこまで入力して良い?

生成AIにファイルでアップロードした資料には、打ち込んだ文に比べて機微な情報が混じりやすいという調査がある。情報漏えい対策の製品を売る Harmonic Security は、自社製品を導入した米英の企業で、2025年4〜6月のブラウザでの生成AIの利用を測定した。機微な情報を含んでいた割合は、文字の入力が4.37%、アップロードしたファイルが約22%で、ファイルのほうが約5倍高かった。

AIへの入力ごとに、紛れ込みやすい情報と貼る前にすることを、Harmonic の調査、Google のヘルプ、自治体での例として兵庫県が2026年9月に改訂した県職員向けのガイドラインの Q&A などを参考情報として整理した。

AIへの渡し方 紛れ込みやすいもの 調査・ガイドラインなど 貼る前にすること
文字で打つ・文を貼る 顧客や担当者の名前、取引先名 名前を「A氏」にしても、特技や特徴のある容貌、公開されている情報との照合で人が分かれば、個人情報のまま。どの会社か分からなくしても、その会社の顧客情報や研究中の発明などは入れない(兵庫県) 名前だけでなく、人や会社が分かる手がかりも外す
ファイルをアップロードする 要約に要らないページ、表のほかの行、付録の名簿 機微な情報をAIに送った件数を出どころで分けると、ファイルは全体の13.9%だが、顧客情報を送った件数では75.3%を占めた(Harmonic) 要るページや列だけを抜き出して貼る
画面を見せる・操作を任せる 操作させるアプリの画面に出ている、頼んだ作業と関係のない情報 Gemini は Android アプリで画面を自動で操作する間にスクリーンショットを撮り、そこにアプリに表示された情報が含まれうる。機密情報を含む作業には画面の自動操作を使わないよう求めている(Google) 関係のない画面を閉じる。機密の作業では任せない
会議の記録を渡す 出席者の名前、発言の中の個人の事情 公開前の会議録は匿名化して入れた上で、出力でまた個人が分かるようになっていないかも確かめる(兵庫県) 入れる前と、出てきた要約の両方を読む

※2026年10月時点

モデル学習を設定で停止しても、ChatGPTなどに残るデータがある

手がかりを外した資料でも、AIに入れたあとの扱いは、設定と入るアカウントで変わる。個人向けのサービスで学習を止める場所は、ChatGPT では[設定]の[データコントロール]にある「すべての人のためにモデルを改善する」だ。Claude では[設定]の[プライバシー]にある「AIモデルの改善を支援する」、Gemini では[設定とヘルプ]の[アクティビティ]にある[アクティビティの保存]だ。Copilot は、個人用のメールアドレスなどで作ったアカウントでは、2026年8月18日から出ている新しい版のアプリに更新すれば、頼んだ内容や答え、アップロードしたファイルが基礎モデルの学習に回らない。ただし、Copilot は会話の履歴を18か月保持し、共有リンクは知っている人なら誰でも開ける。

以下では、学習の設定をオフにしても残る情報と、設定によって学習に使われうる情報を、ChatGPT・Claude・Gemini のヘルプページの情報から整理した。

残るもの・学習に使われうるもの ChatGPT Claude Gemini
消した会話 30日以内に完全に削除する予定。法的な義務などで長く残す場合を除く 30日以内に保存先から削除する。法律で求められる場合や、利用ポリシー違反への対応などで残すことがある 人がレビューした会話は、アカウントから切り離された形で、削除後も最長3年保存される
アップロードしたファイル・連携したデータ・画面 ライブラリに保存したファイルは、会話を消しても消えない。カスタムGPTに入れたファイルは、GPTを消すまで残る 評価ボタンを押した会話では、連携したドライブの元のデータは学習の対象に入らないが、会話に直接コピーした分は入りうる 画面の自動操作のスクリーンショットは、18歳以上なら最初からオンになっているアクティビティの保存を切らない限り、レビューの後で改良に使われる
共有リンク アップロードしたファイルも含まれうる。検索に出る想定ではないが、リンクは非公開ではなく、開ける人は転送もできる。学習の設定を変えても消えない (確かめたヘルプに記載なし) 共有した会話を削除しても、公開リンクは消えない
評価ボタンを押した会話 学習の設定と関係なく、いいね・よくないねで送った会話は丸ごと学習に使われうる 会話全体を最長5年保存し、利用者のIDから切り離して学習に使うことがある アクティビティの保存をオフにしていても、評価を送ると、過去24時間の会話やアップロードしたファイルとともに改良に使われ、レビューされたものは最長3年保存される

※2026年10月時点

Claude では、改善への利用を許していた間の会話が、識別できない形で最長5年保持されることがある。

Gemini は、アクティビティの保存をオフにしても会話を72時間アカウントに置き、その間は応答や安全の確保のために使い、レビュアーが読むこともある。サービス改良用の匿名化データを作る処理には、Gemini の設定は及ばない。

会社や学校が契約するプランのうち、Claude for Work と、ChatGPT の Business・Enterprise・Edu は、入れた内容を既定で学習に使わない。Claude の評価ボタンで送った会話は会社向けでも学習に使われうるが、Team と Enterprise のオーナーは、組織のメンバーが評価ボタンで送れないように設定できる。Copilot Chat は、職場か学校のアカウントでサインインすれば、頼んだ内容も答えも基礎モデルの学習に回らない。Google Workspace の生成AIのヘルプには、入れた内容を人がレビューすることはなく、許可なしにドメインの外で生成AIの学習に使われることもないと書かれている。

個人や会社が特定できる情報を削除してからAIに入力する

社内ルールと秘密保持契約で、生成AIに入力してよいと分かった資料でも、丸ごと貼らずに、必要な部分だけを抜き出し、個人や会社が特定できる情報を削除してからAIに入力するようにしたい。

たとえば、取引先から受け取った提案書をAIに要約させるなら、秘密保持契約で許されている範囲で、取引先名を伏せ、論点が書かれたページだけを貼って頼む手がある。AIが出した要約に、伏せたはずの名前や手がかりが戻っていないかも読み直したい。

なお、生成AI各社のヘルプは書き換わることがある。仕事で使っているAIの[設定]を一度開き、学習の設定と、残っている共有リンクやライブラリのファイルを見ておくと良いだろう。

【参照元】