本文へ移動
Harch AI Lab AI Learning & Research Mediapowered by Artiql Inc.

シャドーAIは何が問題になる?知っておきたい生成AIのリスクと正しい使い方

集計の途中の表をAIに渡してまとめを頼むことを、毎日のようにしている人も多いのではないだろうか。

2026年9月3日、RIZAPは、特定保健指導のデータを集計していた社員が、対象者のデータの一部を「社員が個人で使用している外部の生成AIサービス」に誤ってアップロードしたと公表した。アップロードされたデータには、氏名や生年月日、住所に加え、高血圧症・糖尿病・脂質異常症といった疾患の情報も含まれていた。RIZAPは謝罪し、個人情報保護委員会に報告した。

特定保健指導を委託する側からも、委託先の作業者が個人のAIにデータをアップロードしたという公表が出ている。埼玉県皆野町は、保健事業を任せていた業者の従業員が、特定保健指導のデータを集計するために、自分で使っているChatGPTにデータをアップロードしたと知らせた。確認された対象は全体で19,996件で、そのうち皆野町の該当者は3件だった。全国健康保険協会(協会けんぽ)の兵庫支部と船員保険部も2026年9月30日、特定保健指導を委託していた事業者で、作業者が2026年8月20日に個人利用の生成AIサービスへデータをアップロードしたと公表した。

業務のデータを個人で使うAIにアップロードする事案は、海外でも起きている。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の復興庁では2025年3月、元臨時職員が、住宅支援事業の申請者のデータを含むExcelの表を、許可されていないChatGPTにアップロードした。表は10列・1万2千行を超え、2,031人について、氏名や住所、健康の情報などの一部が入っていた。復興庁は、元臨時職員のアップロードはサイバー攻撃ではないと説明している。

RIZAP・皆野町・協会けんぽ・復興庁のどの事例でも、外からの攻撃ではなく、社員や委託先の作業者が業務のデータを個人で使うAIにアップロードしたことが、組織の公表につながった。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年1月に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの10の脅威に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれた。

この記事は、便利だから使っている個人のAIが組織の公表事案になる理由、シャドーAIになりうる場面、会社が認めていないAIを仕事に使う人の多さを紹介した上で、生成AIを禁止した職場のほうが規則に反する使い方がかえって多いという調査や、会社が使えるAIを用意した例などを紹介する。

シャドーAIでは、会社が知らないうちに情報が流出する

IPAは、職場の許可なく、個人で使っているAIサービスを仕事に使うことを「シャドーAI」として取り上げている。社外に出してはいけない資料を個人のAIに入れれば、その時点で情報が外のサービスに渡る。IPAは、社員が個人のアカウントでAIを仕事に使っていることを職場がつかめない点も危険として挙げている。

会社がシャドーAIの利用を把握していないと、データの行き先は事が起きてから追うことになる。RIZAPは、生成AIの事業者に問い合わせ、アップロードされたデータが学習には使われず、第三者にも見られていないことを確かめたとしている。データを事業者側の社員が見ることのできる状態だった可能性については、RIZAPはまだ確かめている最中だという。皆野町は該当する住民に書面で知らせ、今のところ漏えいや第三者による悪用は確認されていないとしている。

シャドーAIが絡む事故の被害の額も大きくなっている。IBMが2026年7月に発表した調査(2025年3月から2026年2月までに情報の侵害を受けた世界602組織が対象)では、セキュリティ上の事故のうちシャドーAIが絡むものの割合が、前年の20%から43%に増えた。シャドーAIが絡む事故による侵害の平均の費用は539万ドルで、前年の463万ドルを上回った。

無料の翻訳やブラウザの拡張機能もシャドーAIになりうる

ChatGPTに表をアップロードすることだけがシャドーAIではない。シャドーAIは、スマートフォンの個人のアカウントや翻訳サービス、ブラウザの拡張機能でも起きる。

場面 なぜシャドーAIになるのか
通勤中に、スマートフォンの個人のChatGPTで書きかけのメールの続きを頼む 個人のアカウントでは、会話を学習に使うかは本人の設定しだい。会社はその利用を把握できない
無料の翻訳サービスに社内文書を貼る・ファイルをアップロードする DeepLは、無料版では入力した文章やアップロードした文書を、訓練のために一定期間保存すると定めている
会社に届けず、自分で契約した個人向けプランを仕事に使っている 会社は個人の契約の中身を管理できない。AnthropicのClaude Pro・Maxには消費者向けの規約が適用され、法人向けのTeam・Enterpriseとは扱いが異なる。ChatGPTも個人向けプランでは、会話を学習に使うかは本人の設定しだい
ブラウザに「AIサイドバー」などの拡張機能を入れる 会社が認めていない拡張機能では、AIとの会話の行き先を会社が把握できない。OX Securityは2025年12月、正規のAIサイドバーの機能をまねた2つのChrome拡張機能が、ChatGPTなどとの会話を30分ごとに外部へ送っていたと報告した。2つの拡張機能を合わせて90万人超が入れていた

会議に入り込むAIもある。カナダ・オンタリオ州の病院では2024年9月、退職した医師が個人の端末に入れたAIの文字起こしツールが、個人のカレンダーに残っていた定例会議の招待から会議に自動で参加し、患者7人の診断などの話を記録した。自分で入れた議事録のAIが、カレンダーの会議に自動で参加する設定になっていないかも確かめておきたい。

自分もシャドーAIの当事者になる?

会社が認めていないAIを仕事に使う人は珍しくない。角川アスキー総合研究所が『AI白書2026』のために2026年4月、上場企業などに勤める310人に尋ねた調査では、会社の公式でないAIツールを仕事に使ったことがある人は、課長以上の管理職で46.5%、係長以下の一般社員で38.1%だった。KPMGとメルボルン大学が47か国の4万8千人超に尋ねた調査では、職場でAIを使う日本の働き手のうち37%が、勤め先の規則や指針に反する使い方をしたことがあると答えた。世界全体では、職場でAIを使う人の56%が、AIを使ってよいか分からないまま使っていた。

IPAは会社に、通信の記録などで管理されていないAIの利用を把握することや、規程に違反したときの対応を明確にすることを勧めている。個人のAIでの作業も、会社が把握し、対応を決める対象になりうる。

禁止やガイドラインだけで、シャドーAIが止まるとは限らない

KPMGとメルボルン大学の調査の47か国全体の数字では、職場でAIを使う人のうち、会社の情報を公開のAIにアップロードするなど、規則や指針に反する使い方をした人は、生成AIを禁止した組織で67%と最も多かった。AIの使い方の方針がある組織では56%、方針がない組織では33%だった。ただし、生成AIを禁止した組織では使うだけで違反になるため、違反した人の割合は高く出やすい。KPMGとメルボルン大学は報告書で、AIを全面的に禁止しても、規則に反する使い方は減らない可能性があるとしている。

組織の方針別に見た、規則に反するAIの使い方をした人の割合職場でAIを使う人のうち、会社の情報を公開のAIにアップロードするなど、規則や指針に反する使い方をした人の割合
生成AIを禁止した組織67%
使い方の方針がある組織56%
方針がない組織33%
0%25%50%75%100%
47か国の4万8千人超へのオンライン調査。
出典:The University of Melbourne・KPMG「Trust, attitudes and use of artificial intelligence: A global study 2025」(2025年、調査は2024年11月〜2025年1月)

AIのガイドラインを定めた会社でも、公式でないAIを仕事に使う人は少なくない。角川アスキー総合研究所の調査では、全社でガイドラインを定めた会社に勤める人でも、46.9%が公式でないAIを仕事に使ったことがあった。ガイドラインを一部だけ定めた会社では50.0%で、全社で定めた会社と大きな差はなかった。禁止しても、ガイドラインを定めても、それだけで公式でないAIの利用が止まるとは限らない。

会社・組織がオフィシャルにAI環境を用意すると何が変わる?

セキュリティ製品を売るNetskopeが、自社の顧客の一部の通信の記録から集計したところ、日本の組織では、AIを使う人のうち個人用のAIアプリを使う人が、2024年10月からの1年で85%から11%に減った。日本では、組織が管理するAIを使う人が、同じ1年で15%から79%に増えた。世界全体では、同じ期間に個人用のAIアプリを使う人が78%から47%に減っており、日本の移り方はそれより速い。

会社が使えるAIをどう用意するかの例として、LINEヤフーは2025年6月から全従業員にChatGPT Enterpriseのアカウントを配り、リスク管理とプロンプトの必須のeラーニングを受けて試験に合格することを、利用の条件にした。LINEヤフーは、調査や検索ではまずAIに聞く、といった業務ごとのルールも作るとしている。

ただ、Netskopeの集計では、世界で個人と会社のAIのアカウントを行き来する人が4%から9%に増えた。会社の道具が使い勝手や機能で利用者にまだ応えきれていない兆しと、Netskopeは見ている。

国の役所でも、用意したAIを使わない人が出ている。デジタル庁は2025年5月から、生成AIの環境「源内」を全職員に用意した。3か月で約1,200人中約950人が使った一方、5回未満で利用しなくなった職員が170人おり、課長級の半数は利用の実績がなかった。会社がオフィシャルでAI環境を用意したあとにも、それが使われているかを確かめ、足りない点を補うということが必要だ。

仕事では、会社が認めたAIを会社のアカウントで使う

集計の途中の表のまとめなど、AIに仕事を頼む前には、次を確かめたい。

  • 使おうとしている道具は、会社が認めたものか
  • ログインしているのは、会社のアカウントか、個人のアカウントか
  • 入れようとしている情報に、顧客や取引先の情報、社外に出せない資料が含まれていないか

会社のAIで足りないことがあれば、会社に具体的に伝えたい。「PDFを読み込めない」「翻訳の精度が足りない」「スマートフォンから使えない」と場面ごとに伝えれば、会社は何を用意すればよいかを判断しやすくなる。

仕事で使える環境を、会社と一緒に作る側に回りたい。

【参照元】