バーティカルAI(Vertical AI)とは・意味、ほかのAIとの違い・領域別戦略

最終確認日:2026年10月26日
バーティカルAIとは?
バーティカルAIとは、製造、医療、金融、行政など特定の業界や業務に絞り、その現場のデータや知識を生かして作るAIのこと。英語の表記は「Vertical AI」。日本の政府の資料では「領域特化型AI」とも書かれる(※3)。
政府の人工知能戦略本部が2026年7月10日の会合で示した「バーティカルAI領域別戦略 中間とりまとめ」は、バーティカルAIを、特定の領域に特化してデータとAIのモデルとアプリを垂直に統合したシステムと説明している。
垂直統合は一般に、別々の段階を1つの主体がまとめて受け持つことを指す。中間とりまとめによると、バーティカルAIは言葉にしにくい知識も含めて現場で積み重ねた経験や知識をデータにしてためて使うAIなので、現場の力が強い日本と特に相性が良い(※2)。
2026年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画(第Ⅱ期)は、産業や行政の現場向けに領域を絞った「バーティカルAI」と、現実の空間で価値を生み出す「フィジカルAI」にAI戦略の重点を置くとした。
計画は、バーティカルAIとフィジカルAIの実装によるAX(AIトランスフォーメーション)を「日本の勝ち筋」と位置づけている。内閣府の英語の仮訳では、バーティカルAIは「domain-specific “vertical AI”」と訳されている(※1、※4)。
バーティカルAIとほかのAI・業界向けのソフトとの違い
米国の投資会社のベッセマー・ベンチャー・パートナーズは、これまでの業界向けのソフトや業界を問わない汎用のツールと比べて、バーティカルAIを説明している。政府の計画は、フィジカルAIとの役割の分担を示している(※1、※5)。
| 種類 | 一次情報の説明 |
|---|---|
| 業界向けのソフト(バーティカルSaaS) | ベッセマーによると、前の世代の業界向けのソフトで成功した会社は、ソフトが行き届いていなかった業界に向けてクラウドのソフトを作った。その多くは製品を足していき、建設のProcoreや飲食のToastのように、その業界の仕事を一式で担う形に育った。法務・医療・金融などに多い、言葉を扱う繰り返しの作業の多くには、これまでの業界向けのソフトは届かなかった。SaaSは一般に、インターネットを通じて使うソフトを指す |
| 業界を問わない汎用のツール | ベッセマーは、家の設備の修理を受け付ける例で、汎用のツールは客に頼まれた予約を入れるところまでしかできないとしている |
| バーティカルAI | ベッセマーは、大規模言語モデル(LLM)や生成AIのモデルを使い、特定の業界のために作るAIのアプリや基盤と定義している。業界の細かな事情を理解し、CRMなどの仕組みとつなげるうえで、汎用のツールより有利な立場にあるかもしれない。先の例では、客の困りごとを見極め、太陽光パネルを直す技術者を手配できる。CRMは一般に、顧客の情報や取引の記録を管理する仕組みを指す |
| フィジカルAI | 人工知能基本計画は、先に導入が進むバーティカルAIが現場の経験や知識をデータにしてため、続くフィジカルAIがそうしたデータやAIの判断を、機械や装置を使って現実の世界での動きに移すとしている |
バーティカルAIが注目されるようになった背景
米国の投資会社ベッセマーは、2024年6月20日の報告「State of the Cloud 2024」で、英語の「Vertical AI」の語を使い、バーティカルAIの企業の時価総額がこれまでの業界向けのソフトの企業の少なくとも10倍になると予測した(※6)。
同社は2024年9月3日の記事で、LLMを前提に作られた新しい種類のアプリが、それまでの業界向けのソフトの恩恵をあまり受けなかった業務や業界に向けて2023年に現れたと振り返っている(※5)。
日本の政府の計画では、2025年12月23日に閣議決定された最初の人工知能基本計画に、バーティカルAIの語は出てこない(※7)。2026年6月26日の人工知能戦略専門調査会では、基本計画の改定案とともに「バーティカルAI領域別戦略」の素案が委員に示された。その後、7月10日の中間とりまとめ、7月14日の第Ⅱ期の計画、7月21日の日本成長戦略が続いた(※1、※2、※3、※8、※9、※10)。
7月10日の会合で高市首相は、バーティカルAIやフィジカルAIへの官民の投資を『「強く豊かな日本」投資枠』を使って強く進めると述べ、人工知能戦略を担当する小野田大臣を中心に関係省庁が連携して領域別戦略を具体化するよう指示した(※14)。
中間とりまとめは、バーティカルAIの意義を説明する中で、エージェント型AIの登場によってAIが業務全体を自ら回す基盤になり始めたことに触れている(※2)。エージェント型AIは一般に、与えられた目標に向けて自ら作業の手順を決めて進めるAIを指す。
日本成長戦略は、バーティカルAIで他国に頼りすぎるとデータの海外への流出やデジタル赤字の拡大に直結するとして、自律性の確保を急ぐ必要があるとしている(※3)。デジタル赤字は一般に、海外のデジタルのサービスへの支払いが海外から受け取る額を上回ることを指す。
バーティカルAIに関する主な出来事・ニュース
- 2024年6月20日 ベッセマー「State of the Cloud 2024」を公表:ベッセマーは、AIのクラウドの動きをまとめた年次の報告で、バーティカルAIを5つの傾向の1つに挙げた。
- 2024年9月3日 ベッセマー「Part I: The future of AI is vertical」を公開:ベッセマーは、バーティカルAIを扱う4回の連載の1回目で、この分野の機会と市場の動きを説明した。
- 2026年7月10日 政府「人工知能戦略本部(第5回)」を開催:人工知能戦略本部は、AI法に基づく基本計画の案と、バーティカルAI領域別戦略の中間とりまとめを議題にした。
- 2026年7月14日 政府「人工知能基本計画」(第Ⅱ期)を閣議決定:政府は、バーティカルAIとフィジカルAIに重点を置く第Ⅱ期の人工知能基本計画を閣議決定した。
- 2026年7月21日 政府「日本成長戦略」を閣議決定:政府は、日本成長戦略を閣議決定した。同じ日に日本成長戦略本部が決めた官民投資ロードマップは、AI・半導体の分野の製品・技術の1つにバーティカルAI(領域特化型AI)を挙げた。
バーティカルAIに関する国の領域別戦略と目標
政府はバーティカルAIの19の領域ごとに戦略を示した
中間とりまとめは、バーティカルAIを重点的に支える領域を、市場性・公共性・戦略性という観点で選んでいる(※2)。日本成長戦略の注は、選んだ領域を次のように挙げている(※3)。
- 市場性:製造、物流・交通、情報通信、金融、創薬。
- 公共性:医療・介護・福祉、農林水産、建設、教育、行政、エネルギー。
- 戦略性:防衛、警察、防災、消防、サイバー、海洋、宇宙、科学研究。
中間とりまとめは、この19の領域ごとに(製造の領域では造船の節を別に設けて)、目指す姿、課題、取り組みを示している(※2)。
医療・介護・福祉の領域を例にとると、中間とりまとめは、生成AIで看護記録や介護記録などの文書を作る作業を支えるサービスの開発と普及を進めるとしている。電子カルテをエージェント型AIとつなぐための標準の規格を整え、電子カルテの仕様に左右されない医療AIの市場を作る考えも、中間とりまとめは示している(※2)。
政府はバーティカルAIの市場の獲得と投資の規模を数字で示した
日本成長戦略は、バーティカルAIの国内の市場が2030年に約3兆円になるという予測もあるとしたうえで、世界のバーティカルAIの市場のうち、5兆円以上を2030年に獲得する目標を掲げた(※3)。
人工知能基本計画の注は、2040年度までのバーティカルAIへの官民の投資額を23.1兆円と想定している(※1)。令和9年度(2027年度)の概算要求では、AXを実現するためにバーティカルAIの導入と開発・利用を進める新しい事業に、内閣府が約1,009億円を求めた(※11)。
バーティカルAIの語が指す範囲と導入の課題
バーティカルAIという語の指す範囲は、使う主体によって違う。政府の中間とりまとめは、データ、モデル、アプリまでを一体にしたシステムを指している(※2)。ベッセマーは、特定の業界のためのAIのアプリや基盤を指している(※5)。製品の説明や求人で「バーティカルAI」の語を見たときは、どの業界のどの業務を対象にし、どのデータを使うのかを確かめると良いだろう。
中間とりまとめは、エージェント型AIも含めてバーティカルAIを使うときは、人が意思決定の責任を持つことを重視するとしている。人の責任の持ち方として、次のような考え方が議論されているという(※2)。
- Human in the loop:AIが作業を進める流れに、人が直接加わる。
- Human on the loop:作業はAIに任せ、全体の設計と見張りを人が受け持つ。
- Human in the lead:AIを道具として統制し、意思決定や価値を生む主導権を人が握る。
中間とりまとめは医療・介護・福祉の領域の課題に、医療従事者とAIの責任の分け方が明確でないことと、学習のデータに使うときの個人情報の扱いの難しさを挙げている。現場とAIの技術の両方の知識を持つ人材が足りないことにも、中間とりまとめは触れている。製造の領域の節でも、中間とりまとめは、現場の工程や品質の保証を理解したうえでAIで解く課題を決め、実装して運用まで受け持つ人材が足りないと指摘している(※2)。
バーティカルAIに関連する用語
- AX(AIトランスフォーメーション):中間とりまとめは、バーティカルAIを軸に、産業や行政の組織の経営を改め、意思決定や仕事の進め方を見直すAXを進めるとしている(※2)。
- フィジカルAI:日本成長戦略は、バーティカルAIを使うことがフィジカルAIの開発と利用にもつながるとしている(※3)。
- 人工知能基本計画:AIの研究開発と活用を進めるために、AI法に基づいて政府が定める国の基本の計画のこと。
- ヒューマン・イン・ザ・リード:人がAIを道具として統制し、物事を決める主導権と価値を生み出す主導権を持つという考え方のこと。
- AI実装人材:どこでも使える汎用のAIの仕組みではなく、それぞれの現場に合わせたAIの仕組みを届ける人のこと。
バーティカルAIに関する出典
※1 内閣府「人工知能基本計画 ~日本AX、より強く、より豊かに~」(2026年7月14日閣議決定)
※2 人工知能戦略本部「バーティカルAI領域別戦略 中間とりまとめ」(人工知能戦略本部(第5回、2026年7月10日開催)資料2-2)
※3 内閣官房「日本成長戦略」(2026年7月21日閣議決定)
※4 内閣府「Japan’s Second ARTIFICIAL INTELLIGENCE BASIC PLAN」(Provisional translation、2026年7月14日時点)
※5 Bessemer Venture Partners「Part I: The future of AI is vertical」(2024年9月3日)
※6 Bessemer Venture Partners「State of the Cloud 2024」(2024年6月20日)
※7 内閣府「人工知能基本計画 ~「信頼できるAI」による「日本再起」~」(2025年12月23日閣議決定)
※8 内閣府「小野田内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和8年6月30日」(2026年6月30日)
※9 内閣府「人工知能戦略専門調査会(第6回)」(2026年6月26日開催)
※10 内閣府「人工知能戦略本部(第5回)」(2026年7月10日開催)
※11 内閣府「令和9年度AI関連予算要求について」(2026年9月18日)
※12 内閣府「人工知能基本計画」
※13 内閣官房「日本成長戦略本部/日本成長戦略会議」
※14 首相官邸「人工知能戦略本部」(2026年7月10日)




