フィジカルAI(Physical AI)とは・意味、仕組み・ほかのAIとの違い・事例

最終確認日:2026年10月26日
フィジカルAIとは?
フィジカルAIとは、現実の空間の状況を読み取り、ロボットや自動運転車などの機械を動かして作業をこなすAIのこと。英語の表記は「Physical AI」。2026年7月に閣議決定された人工知能基本計画は、フィジカルAIを、現実世界を理解して物理的な行動を生み出すAIと位置づけた。計画は、自動運転や工場・インフラの管理、人と一緒に働く自律型のロボットなどの開発と導入を進めるとしている(※1)。
NVIDIA によると、フィジカルAIは、自律的に動く機械が現実の世界を認識・理解して複雑な動作をこなせるようにするものだ。同社は、そうした機械の例に工場のロボットや運転手を乗せずに走る自動運転のタクシーを挙げる。主にデジタルの情報を扱うAIと違い、フィジカルAIは物の位置関係や変わり続ける状況、物理の法則を考えに入れる必要があるという(※2)。
政府の関係府省の連絡会議がまとめたAIロボティクス戦略によると、これまでの産業用ロボットは、決まった環境と工程を前提に人が動作を教え込んで動かす形が主流だった。近年は、実際の機械やシミュレーションで集めた大量のデータから、ロボットが動作を身につける方法が進んでいる(※3)。
フィジカルAIの仕組み・技術
視覚・言葉・動作を組み合わせるモデルの研究開発が進む
AIロボティクス戦略によると、フィジカルAIをめぐっては、次のようなモデルの研究開発が進んでいる(※3)。
- VLM(Vision-Language Model):画像や動画などの視覚の情報と言葉をまとめて扱うモデル。
- VLA(Vision-Language-Action):視覚と言葉に動作を加え、作業に必要な動き方を生み出すモデル。
- VAM(Vision-Action Model):視覚の情報を、動作や制御に直接つなぐモデル。
フィジカルAIにはAIとハードウェアの一体化が要る
フィジカルAIは現実の世界を相手にするため、AIのモデルだけでは働けない。AIロボティクス戦略は、計算を担う半導体、制御を担うマイコン、動きを生む駆動の部品、周りをとらえる各種のセンサーを組み合わせ、1つのシステムとして成り立たせる必要があるとしている。戦略は、AIとこうした中核のハードウェアを一体にしたものを「フィジカル・インテリジェント・システム」と呼ぶ(※3)。
シミュレーションで確かめてから、実際の機械で動かす
NVIDIA は、フィジカルAIを作って動かす流れを、AIのモデルの訓練、シミュレーションでの確認、実際の機械での実行に分けて説明している。NVIDIA によると、現実の世界のさまざまなデータは、集めるのに時間や費用がかかったり、危険を伴ったりすることがある。
世界モデルやシミュレーションは、多様な場面や合成データを作るのに役立つ(※2)。世界モデルは一般に、現実の世界がどう動くかを学び、この先の状態を予測・模擬するAIのモデルを指す。合成データは一般に、現実の代わりにコンピューターで作った学習用のデータを指す。
出典:NVIDIA「What Is Physical AI? | NVIDIA Glossary」
フィジカルAIとほかのAIの役割の違い
政府の資料は、ほかの種類のAIとの役割の違いでフィジカルAIを説明している(※1、※3)。
| AIの種類 | 政府の資料が示す役割 |
|---|---|
| 大規模言語モデル(LLM) | Web上の大量の文章などを学び、文章の作成や要約、翻訳などを通じて、人が言葉で行ってきた知的な作業の一部を代わりに担ったり補ったりできる。AIロボティクス戦略は、LLMだけでは、体を使う作業を認識から行動まで一貫して担い、安定してこなすことに限界があるとしている |
| バーティカルAI | 産業や行政の現場で使う、特定の領域に特化したAI。人工知能基本計画は、言葉にしにくい知識も含めて、現場で積み重ねた経験や知識を、データとして集める役割を担うとしている |
| フィジカルAI | バーティカルAIが集めたデータやAIが下した判断を、機械や装置を動かして現実の世界で実行に移す |
フィジカルAIの由来と広まった経緯
「Physical AI」の語は、2020年11月10日に学術誌の Nature Machine Intelligence に載った、アスラン・ミリエフ氏とミルコ・コヴァチ氏の論考に出てくる。2人が所属するインペリアル・カレッジ・ロンドンは、この論考が Physical AI という語を初めて定義したと説明している。
論考が想定したのは、人や動物に似た姿と動きを持ち、生き物のような知的な力を備えたロボットだった。2人は、生き物のような働きをロボットで実現するには、これまでのロボット工学やAIにほかの学問を合わせて Physical AI を独自の分野として作る必要があるとした。2人はそのうえで、ロボットの「体」と「頭脳」を一体で作れる研究者を育てる教育の方法を提案した(※4)。
NVIDIA の2024年6月2日の発表の中で、同社のジェンスン・フアンCEOは、ロボット開発の技術群を進めて「generative physical AI」(日本語の発表では「生成物理 AI」)を加速すると述べている(※5)。NVIDIA は2025年1月6日、自動運転車やロボットなどのフィジカルAIのシステムの開発を進めるための基盤「Cosmos」を発表した(※6)。
日本では、2025年12月23日に閣議決定された最初の人工知能基本計画が、2025年に入って進んだ新しい技術としてAIエージェントとフィジカルAIを挙げた(※7)。2026年7月14日に閣議決定された第Ⅱ期の計画は、AI戦略の重点を、領域に特化した「バーティカルAI」と現実の空間で価値を生み出す「フィジカルAI」に置くとした(※1)。
2026年7月21日に閣議決定された日本成長戦略は、17の戦略分野の1つ目「AI・半導体」の最初の項目に「フィジカルAI(特にAIロボット)」を置き、AIロボットで2040年に世界の市場の3割超、20兆円の獲得を目指すとしている(※8)。
企業の発信でも、この語を使う発表が増えた。PR TIMES の集計では、2026年1〜5月に同社のサービスで発表されたプレスリリースのうち、「フィジカルAI」をキーワードに登録したものは371件で、前年の同じ時期の46.38倍だった。PR TIMES によると、同社のサービスでこの語が使われることは2025年の終わりごろまで限られていて、そのころから少しずつ増えた。目立った内容は、セミナー・展示会と製品の発表だった(※9)。
フィジカルAIに関する主な出来事・ニュース
- 2020年11月10日 ミリエフ氏・コヴァチ氏「Skills for physical artificial intelligence」を発表:ミリエフ氏とコヴァチ氏は、Nature Machine Intelligence に、Physical AI の研究者を育てる方法を提案する論考を発表した。
- 2024年6月2日 NVIDIA、ロボット開発の基盤「Isaac」の採用状況を発表:NVIDIA は、台北で開かれたコンピューターの見本市 COMPUTEX で、BYD Electronics や Siemens などのロボット関連の企業が Isaac を採り入れていると発表した。
- 2025年1月6日 NVIDIA「Cosmos」を発表:NVIDIA は、フィジカルAIの開発に使う世界基盤モデルなどをまとめた基盤「Cosmos」を発表した。
- 2025年3月12日 Google DeepMind「Gemini Robotics」を発表:Google DeepMind は、ロボットを直接動かすAIのモデル「Gemini Robotics」と、空間の理解を強めたモデル「Gemini Robotics-ER」を発表した。
- 2025年3月18日 NVIDIA「Isaac GR00T N1」を発表:NVIDIA は、自社が開く技術の会議 GTC で、人型ロボットにさまざまな場面で使える推論と技能を持たせるための、オープンな基盤モデル「Isaac GR00T N1」を発表した。
- 2025年9月25日 Google DeepMind「Gemini Robotics 1.5」を発表:Google DeepMind は、VLAのモデル「Gemini Robotics 1.5」と、VLMの「Gemini Robotics-ER 1.5」を発表した。
- 2025年12月23日 政府「人工知能基本計画」を閣議決定:政府は、最初の人工知能基本計画を閣議決定した。
- 2026年3月25日 ソフトバンク、物流倉庫でのフィジカルAIの検証を紹介:ソフトバンクは、安川電機と連携し、自社の物流倉庫でロボットが商品をつかんで並べるフィジカルAIの検証を行ったと公表した。
- 2026年3月26日 AIロボティクスに関する関係府省連絡会議「AIロボティクス戦略」を決定:政府の関係府省の連絡会議は、第2回の会合でAIロボティクス戦略をまとめた。戦略は2026年5月27日に一部が変更され、別紙の実装ロードマップは2026年8月28日にも一部が変更された。
- 2026年7月14日 政府「人工知能基本計画」(第Ⅱ期)を閣議決定:政府は、2本目の人工知能基本計画を閣議決定した。
- 2026年7月16日 富士通、ファナック・安川電機・川崎重工業とフィジカルAIの事業検討を開始:富士通は、ロボットメーカー3社とともに、NVIDIA の技術を使うフィジカルAIの事業検討を始めると発表した。
- 2026年7月21日 政府「日本成長戦略」を閣議決定:政府は、日本成長戦略を閣議決定した。
フィジカルAIに関する事例・研究
ソフトバンクは物流倉庫で商品を並べるロボットを検証
ソフトバンクは、現場への導入の第一歩として、安川電機と連携して自社の物流倉庫でフィジカルAIを検証した。対象は、折り畳み式の箱に整っていない状態で入ったスマートフォンや付属品を取り出し、包装用の台紙に並べる作業だ。倉庫で扱う商品が新しく加わるたびに条件が変わるため、すべての条件を前もってルールに書くのが難しく、発表の時点では、現場の作業者が物の形や重さを見て対応していた(※10)。
検証では、状況を理解するVLMをソフトバンクの通信網の中にある計算の設備で、動作を生み出すVLAを安川電機のロボットの上で動かし、2つを連携させた。VLMがどの物をつかみ、どこに置くかを決め、VLAがそれに合わせてロボットの関節の角度を出す。ソフトバンクは、ロボットが物を柔軟に、高い精度でつかんで置けることを確かめたとしている(※10)。
Google DeepMind はロボットを直接動かすモデルを発表
Google DeepMind は2025年3月12日、Gemini 2.0 を基にしたVLAのモデル「Gemini Robotics」を発表した。
Gemini Robotics は、出力できるものの種類に物理的な動作を新しく加え、ロボットを直接動かせるようにしたモデルだ。Gemini Robotics は、日常の話し言葉や、さまざまな言語で出された指示を理解して応じるという(※12)。
Google DeepMind の研究の結果では、初めて見る物や場面への対応力を幅広く測る評価で、Gemini Robotics の成績は平均でほかの最先端のVLAのモデルの2倍を超えた。同社は、折り紙を折る、袋にお菓子を詰めるといった細かい作業の例も示している(※12)。
Google DeepMind は動く前に考えるロボットのモデルを発表
Google DeepMind は2025年9月25日、動作の前に言葉で考える手順を加えたVLAのモデル「Gemini Robotics 1.5」を発表した。同社によると、Gemini Robotics 1.5 は考える過程で、長い作業をロボットがこなせる短い段階に分けることができる(※13)。
フィジカルAIの導入の課題と語が指す範囲
AIロボティクス戦略は、AIを使ったロボットがこれまでの制約を大きく変える技術の流れになる可能性は高いとみている。そのうえで、社会での実装に向けた課題が残っていると指摘する。挙がっているのは、安全性と信頼性の確保、汎用性と自律性の獲得、長い時間がかかる作業への対応、評価・検証の方法の確立、運用上の責任分界点などだ(※3)。責任分界点は一般に、どこまでを誰が受け持つかの境目を指す。
AIロボティクス戦略によると、AIを使ったロボットを現場に導入するには、各産業が求める条件を理解し、導入から運用・改善までを担う人材が欠かせない。戦略は、その仕事として、導入の際のシステムの設計や運用中のソフトウェアとハードウェアの調整、改善の繰り返しを挙げている。戦略は、AIに詳しい事業者や人材がロボットや現場の知識を身につける取り組みも進めるとしている(※3)。
フィジカルAIという語が指す範囲は、使う人によって幅がある。2020年の論考は生き物に似たロボットの分野を指し、PR TIMES はロボットや自動運転などの領域を指す語として扱っている(※4、※9)。フィジカルAIと名の付いたセミナーや製品の説明を見るときは、AIがどの作業を対象にし、どこまで自ら状況を判断して動くのかを確かめると良いだろう。
フィジカルAIに関連する用語
- バーティカルAI:第Ⅱ期の人工知能基本計画は、バーティカルAIが集めたデータやAIの判断を、フィジカルAIが現実の世界で実行するとしている(※1)。
- 世界モデル:現実の世界がどう動くかを学び、この先の状態を予測・模擬するAIのモデル。NVIDIA は、フィジカルAIの開発に使うデータを作る手段の1つに挙げている(※2)。
- 人工知能基本計画:2026年7月14日に閣議決定された第Ⅱ期の計画は、フィジカルAIをAI戦略の重点の1つに置いた(※1)。
フィジカルAIに関する出典
※1 内閣府「人工知能基本計画 ~日本AX、より強く、より豊かに~」(2026年7月14日閣議決定)
※2 NVIDIA「What Is Physical AI? | NVIDIA Glossary」
※3 AIロボティクスに関する関係府省連絡会議「AIロボティクス戦略 ~社会実装を加速し、巨大市場を切り拓く~」(2026年3月26日決定、5月27日一部変更)
※4 Imperial College London「Skills development in Physical AI could cultivate lifelike intelligent robots」(2020年11月10日)
※5 NVIDIA「業界のリーダーがNVIDIA Robotics を数千万台の AI 搭載自律マシン開発に採用」(2024年6月2日)
※6 NVIDIA「NVIDIA Launches Cosmos World Foundation Model Platform to Accelerate Physical AI Development」(2025年1月6日)
※7 内閣府「人工知能基本計画 ~「信頼できるAI」による「日本再起」~」(2025年12月23日閣議決定)
※8 内閣官房「日本成長戦略」(2026年7月21日閣議決定)
※9 PR TIMES「フィジカルAIは46倍超、2026年トレンドワードランキング-約20万件の企業発表を分析-」(2026年6月25日)
※10 ソフトバンク「フィジカルAIを現場へ ― 物流倉庫の実タスクで学習・動作を検証」(2026年3月25日)
※11 富士通「富士通が、ファナック、安川電機、川崎重工業の各社と、NVIDIAの技術を取り入れたフィジカルAIの社会実装に向けた事業検討を開始」(2026年7月16日)
※12 Google DeepMind「Gemini Robotics brings AI into the physical world」(2025年3月12日)
※13 Google DeepMind「Gemini Robotics 1.5 brings AI agents into the physical world」(2025年9月25日)
※14 Aslan Miriyev・Mirko Kovač「Skills for physical artificial intelligence」(2020年11月10日、Nature Machine Intelligence)
※15 NVIDIA「NVIDIA Announces Isaac GR00T N1 — the World’s First Open Humanoid Robot Foundation Model — and Simulation Frameworks to Speed Robot Development」(2025年3月18日)
※16 内閣府「人工知能基本計画」
※17 内閣官房「AIロボティクスに関する関係府省庁連絡会議」
※18 内閣官房「日本成長戦略本部/日本成長戦略会議」
フィジカルAIに関連する記事
- シンガポールのUnivers、日本でフィジカルAIの適用を建物・社会インフラへ拡大する方針(2026.10.06)




