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エージェンティックエンジニアリング(Agentic Engineering)とは・意味、進め方・由来・事例

最終確認日:2026年10月27日

エージェンティックエンジニアリングとは?

エージェンティックエンジニアリングとは、AIエージェントにコードを書かせて動かし、人は計画と指揮と結果の点検を受け持つソフトウェア開発のやり方のこと。英語では「Agentic Engineering」と書く。AI研究者の Andrej Karpathy 氏が、2026年2月の X への投稿でこの呼び名を挙げた(※1)。

Karpathy 氏の投稿によると「agentic」は、人がほとんどの場面でコードを直接書かず、コードを書くエージェントを指揮して監督する立場に回ることを表す。「engineering」は、このやり方にも技と理論と専門の知識があり、学んで上達できることを強調する語だという(※1)。

ソフトウェア技術者の Simon Willison 氏も、コーディングエージェントの助けを借りてソフトウェアを開発する営みを、この語で呼んでいる。コーディングエージェントは、コードを書くだけでなく実行もできるエージェントだ。Willison 氏は例として Claude Code や OpenAI の Codex、Google の Gemini CLI を挙げる(※4)。

先にあった語に、同じ Karpathy 氏が2025年2月に名付けたバイブコーディングがある。Karpathy 氏はこの投稿で、AIが出した変更をいつもすべて受け入れ、中身を読まずに作るやり方を書いていた(※9)。

Willison 氏は、コードにまったく目を向けないバイブコーディングの反対の端に、エージェンティックエンジニアリングを置く。同氏によると、エージェンティックエンジニアリングは専門の技術者がコーディングエージェントで自分の知識を生かし、仕事の質と速さを高めるやり方だ(※3)。

エージェンティックエンジニアリングの進め方

エージェントがコードを書いて動かし、人は道具と問題を与える

Willison 氏の説明では、人がコーディングエージェントに目標を伝えると、エージェントは目標を満たすまでコードを書いては実行することを繰り返す。同氏によると、エージェンティックエンジニアリングを成り立たせる中心の力は、コードを実行できることだ。コードを動かせれば、エージェントは実際に動くと示せるソフトウェアに向けて直しを重ねられるからだ(※4)。

Willison 氏によると、問題を解くのに要る道具をエージェントに渡すのは人の仕事だ。問題をちょうどよい細かさで示すことや、結果を確かめて直しを重ねることも、人が受け持つ。大規模言語モデルそのものは過去の失敗から学ばない。それでも、人が途中で学んだことを意図して指示や道具に反映すれば、コーディングエージェントは失敗から学べるという(※4)。

Osmani 氏の進め方では、人が計画を立ててコードに責任を持つ

技術者の Addy Osmani 氏は、エージェンティックエンジニアリングの実際の進め方を、次の流れで示している(※2)。

エージェンティックエンジニアリングの進め方Addy Osmani 氏の説明をもとに整理
1
計画を立てる指示を書く前に設計の文書や仕様を書き、作業を中身のはっきりした単位に分けて、設計の方針を決めるOsmani 氏は、バイブコーディングではこの段階が飛ばされ、そこから開発が崩れるとしている
2
任せてから見直す計画から範囲を絞った作業をエージェントに任せ、出てきたコードを人の同僚の変更と同じ厳しさで見直す何をする部分かを説明できないコードは取り込まない
3
テストを重ねるテストがそろっていれば、エージェントはテストに通るまで繰り返しコードを直せるテストがなければ、エージェントは動かないコードでも「できた」と言ってしまう
4
コードに責任を持つ文書を整え、変更の履歴の管理や自動のテストの仕組みを使い、本番での動きを見守るAIが仕事を速めても、システムに責任を持つのは人だ
出典:Addy Osmani「Agentic Engineering」(2026年2月4日)

Osmani 氏は、図の3段目のテストを、バイブコーディングとのいちばん大きな違いに挙げる(※2)。

テストを先に書かせると、エージェントの誤りを防ぎやすい

Willison 氏は、ガイドの章の一つで、テストを先に書く開発のやり方をエージェントに使わせることを勧めている。コーディングエージェントには、動かないコードや、使われない余計なコードを書いてしまうおそれがある。テストを先に書いておくとこうした誤りを防ぎやすくなり、あとの変更で既存の機能が壊れるのを防ぐテストもそろうという(※5)。

進め方は、まずテストを書き、そのテストが失敗することを確かめてから、テストに通るまで実装を直すというものだ。章の題にある「red」は失敗を見る段階、「green」は通ったことを確かめる段階を指す。

TDD は、テスト駆動開発(Test Driven Development)の略だ。Willison 氏によると、エージェントへの指示に「Use red/green TDD」と書くだけで、よいモデルはこの手順を理解する(※5)。

エージェントとの働き方はそばで指示する形とまとめて任せる形の2つ

Osmani 氏らが Kaggle で公開したホワイトペーパー「The New SDLC With Vibe Coding」(2026年5月付け)は、人がAIエージェントと働く形を2つに分けている(※6)。

  • 指揮者の形:開発者は、コードの編集ソフトの中でAIと並んでリアルタイムに作業し、指示と直しで細かく導く。この形は、複雑な処理や慣れないコードを扱うときによく使われる。
  • まとめ役の形:開発者は目標を決めてエージェントに割り当て、結果を見直す。エージェントは裏で並行して作業していることもあり、開発者はときどき様子を見て方向を直す。この形は、不具合の修正やテストの作成のように中身のはっきりした作業でよく使われる。

ホワイトペーパーは、まとめ役の形で要る力として、作業をあいまいさなく決める力、作業を適切な大きさに分ける力、出力の質をすばやく見極める力、エージェントを支える制約やテストを設計する力を挙げている(※6)。

コードの書き方の好みを手放し、失敗時は作業の流れを直すという発表

Google Research のサイトに載った Ramón Medrano Llamas 氏の発表「Industrial Agentic Engineering」は、大規模言語モデルを単なる入力の補完の道具ではなく半ば自律した仕組みとして扱う規律を、エージェンティックエンジニアリングと定義している。この仕組みは、確かめられる仕様に沿って、いくつもの段階からなる作業を進める(※8)。

同じ発表の要旨は、人の側の変化として次の2点を挙げている(※8)。

  • 技術者は自分の書き方の好みを手放し、自動のテストや点検に通ったコードは受け入れる。
  • 失敗が起きたとき、技術者はコードの書き方ではなく、エージェントの道具や検索の言葉、指示の制約といった作業の流れを直す。

エージェンティックエンジニアリングとバイブコーディングの違い

ホワイトペーパー「The New SDLC With Vibe Coding」は、バイブコーディングとエージェンティックエンジニアリングを、二者択一ではなく一続きの範囲の両端と見る。違いを分けるのはAIを使うかどうかではなく、AIの出力の周りにどれだけの決まりと確認、人の判断があるかだという。ホワイトペーパーは、両端の間に「構造化したAI支援の開発」を置き、3つを同じ観点で比べている(※6)。

観点 バイブコーディング 構造化したAI支援の開発 エージェンティックエンジニアリング
意図の伝え方 普段の言葉で気軽に指示する 例や制約を添えて詳しく指示する 正式な仕様書や設計の文書、記憶用のファイルで伝える
確かめ方 動いているように見えるかを見る 人の手で試し、要所を抜き出して点検する 自動のテスト、変更を取り込むときの自動の点検、言語モデルによる評価で確かめる
コードの理解 ほとんどない。生成されたコードを読まないこともある 重要な処理の部分を選んで見直す 設計の全体を見直し、実装の細部はAIが受け持つ
エラーへの対応 エラーの表示をAIに貼り戻す 開発者が原因を突き止め、AIが直す 決めた範囲の中でエージェントが自ら原因を探り、設計の問題は人が扱う
向く範囲 試作品、小さなプログラム、個人の制作、ハッカソン 既存のコードの中での機能の追加 本番のシステム、チームでの開発
リスク 高い。使い捨てのコードなら許せる 中くらい。要所で人が判断する 低い。どの段階でも決まった手順で確かめる

ホワイトペーパーによると、範囲のどこに位置を取るかは、失敗したときの影響の大きさで決まる。週末の試作品ならバイブコーディングだけでよいが、金融の取引を扱う本番の API にはエージェンティックエンジニアリングが要るという。実際の仕事の多くはその間に入り、作業ごとに線を引く判断が求められるとしている(※6)。API は、ソフトウェア同士をつなぐ窓口を指す。

同じホワイトペーパーは、モデルの周りで指示や道具、文脈の扱い、作業を隔てる環境などを受け持つ仕組みを「ハーネス」と呼び、エージェントをモデルとハーネスを合わせたものと捉える(※6)。この仕組みは、用語集のエージェントハーネスで詳しく扱っている。

ホワイトペーパーによると、同じエージェントを使っても、バイブコーディングにもエージェンティックエンジニアリングにもなりうる。2つを分けるのは道具ではなく、ハーネスをどれだけ意図して組み立てて使うかだという(※6)。Google Research のサイトに載った、2026年の発表の要旨も、道具や指示、厳しい制約からなるハーネスに手間をかけなければ、モデルだけではほとんど役に立たないとしている(※8)。

エージェンティックエンジニアリングの由来と広まった背景

Karpathy 氏は2026年2月、バイブコーディングの投稿から1年がたったのを機に、当時を振り返った。当時の大規模言語モデルの力は低く、バイブコーディングは主に遊びの使い捨ての制作や実演、試しに使われていたという。

Karpathy 氏は、エージェントを使うプログラミングが専門家の標準の仕事の進め方になりつつあり、そこではもっと多くの監督と点検が伴うとみる。投稿によると、多くの人がこのやり方をバイブコーディングと分ける呼び名を探しており、Karpathy 氏は自分がいま気に入っている呼び名として「agentic engineering」を挙げた(※1)。

同じころ Osmani 氏は、バイブコーディングの語の広がりが混乱を生んでいると書いた。この語は、週末の試作から規律ある開発の進め方までを指すようになっていたという。

Osmani 氏は、自分では「AI-assisted engineering」の呼び名を好んでいたこと、Willison 氏が「vibe engineering」を提案していたことにも触れている。そのうえで、「vibe」の語は気楽さを感じさせるとし、Karpathy 氏の挙げた呼び名を気に入っていると思うと書いた(※2)。

Willison 氏のガイドや Google のブログ、Google Research のサイトに載った発表でも、この語が使われている(※3、※7、※8)。

エージェンティックエンジニアリングに関する主な出来事・ニュース

エージェンティックエンジニアリングに関する事例

Google の Davis 氏はスキルと単純な設計でエージェントを導く

Google Cloud の Shir Meir Lador 氏が同社のブログにまとめた対談によると、Google の技術者の Rody Davis 氏は、エージェントを中心に据えた Google の開発の道具「Google Antigravity」を使って開発している。

Davis 氏は、エージェントに渡す「スキル」を、モデルに渡す文脈を短くまとめる手段と捉えている。同氏はスキルを、エージェントのための早見表にたとえる。デザインの決まりや API の説明書をスキルとして渡すと、モデルは速く正確になるという(※7)。

Davis 氏は、ウェブサイトを Markdown の形の文書に変える道具を Go 言語で作った。この道具で、よく見るサイトのスキルを数百入れ、自分が使う版の説明書をエージェントがいつでも読めるようにしている(※7)。

Davis 氏は、状態と画面とデータを厳しく分けた単純な作りを勧めている。エージェントがファイルを違う場所に置くと、作りの決まりから外れたことがすぐ分かり、人がエージェントを導きやすいためだ。最初の1つの例は自分で書き、残りはエージェントにその型をまねさせるのがよいという(※7)。

エージェンティックエンジニアリングを仕事に取り入れるときの注意

エージェンティックエンジニアリングは、コードを書く手間を減らす一方で、人に別の力を求める。

Osmani 氏によると、システムの設計や安全、性能の基礎がある経験者ほど、AIの出力を見直して直せるので得るものが大きい。基礎を身に付ける前にAIに頼る若手は、コードを理解しないまま作れてしまい、力が育たないおそれがあるという。同氏は、このやり方は従来の開発より楽なのではなく、打つ時間を見直す時間に置き換える別の難しさがあるとしている(※2)。

ホワイトペーパー「The New SDLC With Vibe Coding」は、「80%の問題」と呼ぶ課題を挙げている。AIエージェントは機能のコードのおよそ8割を速く作れるが、残りの2割は、まれな場合の扱いやエラーの処理、ほかの仕組みとのつなぎ目などだ。この部分には、今のモデルが持たないことの多い深い文脈の知識が要る。

ホワイトペーパーによると、AIの誤りは単純な書き間違いから、業務の決まりの思い違いやまれな場合の見落としのような考え方の誤りに移ってきた。こうした誤りはコードが正しく見えるうえ、基本的なテストにも通ることがあるので、見つけにくいという(※6)。

ホワイトペーパーは、試作と本番の仕事をチームの決まりで分けるよう勧めている。どの案件や環境でどちらのやり方を使うかをはっきりさせないと、試作品が意図せず本番に出てしまうという(※6)。

エージェンティックエンジニアリングに関連する用語

  • バイブコーディング:作りたいものを普段の言葉でAIに伝え、AIが書いたコードでアプリやプログラムを作る開発のやり方。項目では、語の由来や企業の調査、作ったコードの安全性を調べた研究を紹介している。
  • エージェントハーネス:AIエージェントのうちモデル以外の部分で、道具の実行や文脈の管理、止める判断を受け持つ仕組み。
  • エージェントスキル:仕事の手順や専門の知識をファイルにまとめておき、AIエージェントが必要なときに読み込んで使えるようにする仕組み。
  • 理解の負債:AIが作ったコードがチームの理解より速く積み上がり、あとでそのコードを直したり変えたりするときにまず理解するための手間として返ってくる状態。
  • コンテキストエンジニアリング:AIモデルが答えを作るときに読む情報の全体(コンテキスト)を、作業の段階ごとに選んで整える技術。

エージェンティックエンジニアリングに関する出典

※1 Andrej Karpathy「A lot of people quote tweeted this as 1 year anniversary of vibe coding」(2026年2月5日)
※2 Addy Osmani「Agentic Engineering」(2026年2月4日)
※3 Simon Willison「Writing about Agentic Engineering Patterns」(2026年2月23日)
※4 Simon Willison「What is agentic engineering? – Agentic Engineering Patterns」
※5 Simon Willison「Red/green TDD – Agentic Engineering Patterns」(2026年2月23日公開。あとから更新していく作りのガイドの章)
※6 Addy Osmani、Shubham Saboo、Sokratis Kartakis「The New SDLC With Vibe Coding」(2026年5月、Kaggle)
※7 Shir Meir Lador「Agent Factory Recap: 100X engineering with AI agents in Google Antigravity 2.0」(2026年6月18日、Google Cloud のブログ)
※8 Ramón Medrano Llamas(Google Research)「Industrial Agentic Engineering」(2026年)
※9 Andrej Karpathy「There’s a new kind of coding I call “vibe coding”」(2025年2月3日)