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AI Omnibus(AIオムニバス)とは・意味、変わること・適用日・背景

最終確認日:2026年10月31日

AI Omnibus(AIオムニバス)とは?

AI Omnibus(AIオムニバス)とは、EUのAI法の一部を改める規則(EU) 2026/1744 の呼び名のこと。規則の正式な題には「Digital Omnibus on AI」とあり(※2)、欧州委員会は同じ立法を「AI Omnibus」とも呼んでいる(※1、※10)。

欧州委員会によると、AI Omnibus はAI法の決まりを的を絞って簡素にするもので、人の安全と基本的な権利を守る仕組みは保つとしている。高リスクのAIシステムに関する決まりの適用を遅らせるほか、一部の中小企業向けの措置を少し大きな企業にも広げ、同意のない性的な内容を作るAIシステムなどの禁止を加えた(※1)。

提案や合意の段階にある案ではなく、AI Omnibus は2026年7月27日にEU全体で発効した(※1)。規則の本文は、EUのすべての加盟国に直接適用されると定めている(※2)。

AI Omnibusで変わることと適用日

決まり もとの定め AI Omnibus のあと
付属書IIIの高リスクのAIシステム(生体認証、教育、雇用など特定の分野のもの)の主な義務 2026年8月2日から適用 2027年12月2日から適用
付属書Iの高リスクのAIシステム(エレベーターやおもちゃなどの製品に組み込むもの)の主な義務 2027年8月2日から適用 2028年8月2日から適用
2026年8月2日より前に市場に出た生成AIのシステムへの、機械で読める印付け 2026年8月2日から適用 2026年12月2日までに対応
各国が設ける規制のサンドボックス(監督の下でAIを試す場)を少なくとも1つ 2026年8月2日までに稼働 2027年8月2日までに稼働
同意のない性的な内容や児童の性的虐待の素材を作るAIシステムの禁止 なし 2026年12月2日から適用

※2026年10月時点。もとの定めは※11、AI Omnibus のあとは※2 による。分野と製品の例は※5 による。

同意のない性的な内容や児童の性的虐待の素材を作るAIを禁止

AI Omnibus は、AI法の禁止事項に2つを加えた。1つは、特定できる人の性的な部位や性的な行為を写実的に示す画像・動画・音声などを、本人の明確な同意なしに作ったり加工したりするAIシステムだ。もう1つは、児童の性的虐待の素材を作ったり加工したりするAIシステムで、捜査当局の活動など国内法が権限のない行為に当たらないと認める場合を除く。禁じられるのは市場に出すこと、使い始めること、使うことだ(※2)。

こうしたAIシステムを提供者が市場に出したり使い始めたりすることが禁じられるのは、2つの場合に限られる。

1つは、こうした素材を作ったり加工したりすることがシステムの本来の目的である場合だ。もう1つは、設計や機能から見て大きな技術的な改変なしに作ったり加工したりできることが合理的に予見でき再現もできるのに、それを確実に防ぎ、見つかったり報告されたりした悪用を正す合理的で十分な安全策をシステムが備えていない場合だ。利用者が使うことが禁じられるのは、こうした素材を作ったり加工したりする目的で使う場合だ(※2)。

AIリテラシーの義務は向上を支える措置に

AI法のもとの条文は、AIシステムの提供者と利用者に対し、職員などのAIリテラシーをできる限り十分な水準にする措置を求めていた(※11)。改正後の条文は、職員などのAIリテラシーの向上を支える措置を求める形に変わり、個人ごとに特定の水準を保証することまでは求めないと明記した(※2)。義務そのものがなくなったわけではない。欧州委員会と加盟国は、提供者と利用者の取り組みを支援する役割を負う(※2)。

AI Omnibus は中小企業向け措置の拡大や監督の見直しも含む

AI Omnibus には、ほかに次のような変更がある(※1、※2、※6、※10、※17)。

  • 中小企業向けの一部の措置を、それより少し規模の大きい企業(small mid-cap)にも広げる。
  • 高リスクかどうかを問わず、偏りを見つけて直すために厳密に必要な場合に限り、適切な保護措置の下で例外として特別な種類の個人データ(人種や健康に関する情報など)を扱えるようにする。対象になるのは、健康と安全に影響するか基本的な権利を損なうおそれのある偏りと、EU法が禁じる差別につながるおそれのある偏りだ。ほかのデータでは代えられないことや第三者に渡さないことなどの条件も、すべて満たす必要がある。
  • 汎用AIモデル(さまざまな用途に使える基盤のモデル)を基に作られたものなど一部のAIシステムの監督について、欧州委員会のAIオフィスの権限を広げる。
  • AIを組み込んだ機械製品は、健康と安全の水準を同等に保つことを前提に、機械の分野の安全の決まりに従えばよいと明確にする。

AI Omnibusが設けられた背景

AI法は2024年8月1日に発効し、決まりごとに適用の時期が分かれている(※2)。もとの定めでは、AI法は原則として2026年8月2日から適用され、製品に組み込むものなど一部の高リスクのAIシステムの決まりは2027年8月2日からとされていた(※11)。

AI Omnibus の前文は、見直しの理由の1つに準備の遅れを挙げている。遅れたのは、高リスクのAIシステムの提供者が義務を果たすための技術的な手段を示す標準の作成と、各国での統治とAIシステムが要件に合うかの評価の枠組みの整備だ。前文によると、この遅れで義務を果たす負担は想定より重くなった。利害関係者への意見聴取からは、守る水準を下げずに実施と順守を助ける追加の措置が必要だと分かったという(※2)。

欧州委員会の当初の案は、高リスクの決まりの適用時期を、標準など義務の順守を支える道具が使えるようになる時期に結び付けるものだった。欧州議会とEU理事会の合意では、適用時期は固定の日付に改められた(※3)。

発効のあとの2026年10月14日には、EN 18286:2026 がEUの官報に載った。ジェトロによると、この規格はAI法を支える整合規格(適合すればその規格が対象とする範囲で法の要件を満たすと推定される規格)の最初のもので、高リスクのAIシステムの提供者が備える品質管理の仕組みを扱う(※14)。

AI Omnibusに関する主な出来事・ニュース

高リスクのAIシステムの例と分類の指針案

欧州委員会は、2027年12月2日から決まりが適用されるシステムの分野として、生体認証、重要インフラ、教育、雇用、移民、庇護、国境管理などを挙げた。2028年8月2日から適用されるシステムの例には、エレベーターやおもちゃなどの製品に組み込むものを挙げている(※5)。

自社のシステムが高リスクに当たるかを判断するための指針は、欧州委員会が別に作っている。指針案が示す例は、すべてを尽くしたものではない。指針に法的な拘束力はないものの、欧州委員会の解釈を示し、法の執行の指針になるという(※12)。意見の募集は2026年7月23日までで、その案内のページには、最終版を2026年末までに採択すると書かれている(※13)。2026年10月時点で、指針のページは案として紹介している(※12)。

AI Omnibusの言い方

言い方 指すもの 使っている主体
AI Omnibus 規則(EU) 2026/1744 と、その提案の呼び名 欧州委員会(※1、※10)
Digital Omnibus on AI 規則の正式な題にある名前 規則の本文、欧州委員会、欧州議会(※2、※3、※5)
Omnibus VII 欧州議会の立法手続きの記録の題に添えられた呼び名 欧州議会(※4)
Digital Omnibus 2025年11月に出た2本の規則案を指す。AI の規則案とは別の、データ・サイバーセキュリティ・プライバシーの規則案の名前にも使う 欧州委員会(※15)

AI Omnibusの発効後の義務と読み違えやすい点

AI Omnibus で高リスクの決まりの適用は遅れたが、AI法の義務がすべて先に延びたわけではない。汎用AIモデルの義務は2025年8月2日から適用されている(※9)。電子透かしなどによる印付けを含むAI法第50条の透明性の決まりも、経過期間のある印付けを除けば、2026年8月2日から適用されている(※16)。

高リスクの決まりには経過の定めもある。適用日より前に市場に出たか使い始めた高リスクのシステムは、別の定めがあるものを除き、適用日のあとに設計を大きく変えたときに限って対象になる。ただし、公的機関が使うことを想定したシステムの提供者と利用者は、2030年8月2日までに対応しなければならない(※2)。

欧州委員会によると、AI法の適用先にはEUの外の者も含まれる。EUの市場にAIシステムや汎用AIモデルを出す者と、EUでAIシステムを使い始める者や使う者が対象だ(※9)。条文も、提供者の拠点がEUの外にあっても対象になると定めている(※11)。そのため、EUで製品やサービスを扱う日本の企業は、自社のシステムと役割が対象に当たるかを確かめる必要がある。

欧州委員会のページには、「political agreement」(政治合意)を受けて適用時期が変わったと書いたものがある(※10、※12)。政治合意は手続きの途中の段階を指す言葉だが、AI Omnibus は上の出来事のとおり発効まで進んだ。

「Digital Omnibus」という名前の、データ・サイバーセキュリティ・プライバシーの規則案は、AI Omnibus とは別の案だ。欧州議会の2026年6月16日の発表では、議会がデータ利用とデータ保護に関する提案を審議中としていた(※6)。

AI Omnibusに関する出典

※1 欧州委員会「AI Omnibus enters into force」(2026年7月27日)
※2 欧州議会・EU理事会「Regulation (EU) 2026/1744 of the European Parliament and of the Council of 8 July 2026 (Digital Omnibus on AI)」(2026年7月24日、EU官報)
※3 欧州議会「Digital Omnibus on AI | Legislative Train Schedule」(2026年9月20日時点の情報)
※4 欧州議会「Simplification of the implementation of harmonised rules on artificial intelligence – Digital Omnibus on AI (Omnibus VII)」(2026年7月24日)
※5 欧州委員会「EU agrees to simplify AI rules to boost innovation and ban ‘nudification’ apps to protect citizens」(2026年5月7日)
※6 欧州議会「AI Act: EP approves simplification measures and “nudifier” app ban」(2026年6月16日)
※7 EU理事会議長国キプロス「Artificial Intelligence: Council gives final green light to simplify and streamline rules」(2026年6月29日)
※8 欧州委員会「Digital Omnibus on AI Regulation Proposal」(2025年11月19日)
※9 欧州委員会「Navigating the AI Act」(2026年10月20日更新)
※10 欧州委員会「AI Act」(2026年10月19日更新)
※11 欧州議会・EU理事会「Regulation (EU) 2024/1689 (Artificial Intelligence Act)」(2024年7月12日、EU官報)
※12 欧州委員会「Guidelines for providers and deployers of AI high-risk systems」(2026年10月19日更新)
※13 欧州委員会「Targeted consultation on the draft guidelines for the classification of high-risk artificial intelligence systems」(2026年5月19日、6月16日更新)
※14 ジェトロ「EU AI法の適用を支援する初の整合規格が官報に掲載」(2026年10月27日)
※15 欧州委員会「An agile Digital Rulebook for the EU」(2026年7月27日更新)
※16 欧州委員会「Quick facts: transparency rules for AI systems」(2026年7月29日更新)
※17 欧州議会・EU理事会「Regulation (EU) 2016/679 (General Data Protection Regulation)」(2016年5月4日、EU官報)