コンテキストエンジニアリング(Context Engineering)とは・意味、主な手法・由来・事例

最終確認日:2026年10月27日
コンテキストエンジニアリングとは?
コンテキストエンジニアリングとは、AIモデルが答えを作るときに読む情報の全体(コンテキスト)を、作業の段階ごとに選んで整える技術のこと。英語では「Context Engineering」と書く。Anthropic によると、コンテキストは大規模言語モデル(LLM)が文章を生成するときに読み込むトークンの集まりを指す。トークンは、モデルが文章を扱うときの単位だ(※1)。
Anthropic はコンテキストエンジニアリングを、推論の間にモデルへ渡す情報の組み合わせを最適な形に選び、保ち続けるための方法の集まりと定義している。
対象には、プロンプトの外から入ってくる情報も含まれる。同社によると、推論を何度も重ねて長く動くエージェントを作るようになり、システムへの指示や道具、MCP(AIのアプリを外部のデータや道具とつなぐ共通の規格)、外部のデータ、それまでのやり取りの履歴など、コンテキスト全体を管理する方法が必要になっている(※1)。
これまでよく使われてきた「プロンプトエンジニアリング」は、モデルへの指示の書き方と組み立て方を工夫する方法を指す。
Anthropic は、コンテキストエンジニアリングをプロンプトエンジニアリングが自然に発展したものと捉えている。同社によると、プロンプトを書くのは区切りのある単発の作業だ。これに対してコンテキストエンジニアリングは、モデルに何を渡すかを決めるたびに選び直す、繰り返しの作業になる(※1)。
AIエージェントを作るためのソフトウェアを提供する LangChain は、ブログで、プロンプトエンジニアリングはコンテキストエンジニアリングの一部だという見方を示している(※2)。
コンテキストエンジニアリングの主な手法
Anthropic は、よいコンテキストエンジニアリングを、望む結果を得る見込みが最も高くなるよう、役に立つ情報をできるだけ少ないトークンに絞り込むことと説明している。同社は手法を、渡す情報の中身の絞り方、必要になった時点での情報の読み込み方、長い作業の途中での文脈の保ち方に分けて説明している(※1)。
Anthropic は指示や道具を必要な分に絞るよう勧める
Anthropic は、システムプロンプト(AIの役割や振る舞いをあらかじめ指定しておく指示)を、はっきりした簡単な言葉で書くよう勧めている。
細かな条件分けをプロンプトに書き込みすぎると、壊れやすく保守もしにくくなる。逆に、ぼんやりした大まかな指示では、モデルが何を出せばよいかの手がかりにならない。同社は、期待する振る舞いを過不足なく示す最小限の情報を目指すよう勧めている。ここでの最小限は、必ずしも短いことを意味しない(※1)。
道具についても、Anthropic は数を絞るよう勧める。同社がよく見る失敗の1つは、道具を詰め込みすぎた結果、受け持つ機能が広がりすぎたり、どれを使えばよいか迷う場面ができたりすることだ。同社によると、ある場面でどの道具を使うかを人の技術者が言い切れないなら、AIエージェントにそれ以上の判断は期待できない。
手本として示す例について、同社は、考えられる例外を並べ立てることを勧めない。期待する振る舞いをよく表す、種類の違う例を選ぶよう求めている(※1)。
必要な時点で情報を読み込む「just in time」の戦略
Anthropic は、必要になった時点で情報を取りに行くやり方を「just in time」の戦略と呼ぶ。この戦略をとるエージェントは、関係しそうなデータを最初からすべて読み込まない。ファイルの置き場所や保存した検索の条件、ウェブのリンクなどの軽い手がかりだけを持ち、作業中に道具を使って中身を読み込む(※1)。
Anthropic のコーディングエージェント Claude Code は、この考え方と、作業の始めに一部の情報を渡すやり方を組み合わせている。CLAUDE.md というファイルは最初から文脈に入れ、ほかのファイルは検索の道具を使って必要なときに探して読み込む。同社は、作業中に探すやり方は前もって用意したデータを読むより時間がかかるとも書いている(※1)。
長い作業でコンテキストウィンドウの上限に対処する手法
大きなコードの移行のように数十分から数時間続く作業では、扱う情報がモデルのコンテキストウィンドウ(一度に読み込める量の上限)を超えることがある。Anthropic は、この制約に対処する手法を次の表のように示し、どれを選ぶかは作業の性質によるとしている(※1)。
| 手法 | Anthropic の説明 | 向いている作業 |
|---|---|---|
| 圧縮(compaction) | 上限に近づいた会話の中身を要約し、その要約をもとに新しいコンテキストで作業を続ける | やり取りの往復が多い作業 |
| 構造化したメモ | エージェントが文脈の外にメモを書き残し、あとで読み戻す | 区切りのはっきりした開発を繰り返す作業 |
| サブエージェント | 専門のエージェントがまっさらな文脈で深く調べ、要約(多くは1,000〜2,000トークン)だけを主のエージェントに返す | 並行して調べると効果の出る、複雑な調査や分析 |
コンテキストエンジニアリングの由来と広まった背景
コンテキストエンジニアリングという語は、2025年6月に、AIエージェントを作る会社の人や開発者の間で相次いで使われ、広まった。AIエージェントを開発する Cognition の Walden Yan 氏は、6月12日の同社のブログで、この語を「プロンプトエンジニアリング」の次の段階と説明した。
Yan 氏によると、コンテキストエンジニアリングは、課題を理想の形でモデルに渡す作業を動的なシステムの中で自動で行うことだ。Yan 氏は、これをAIエージェントを作る技術者の事実上いちばんの仕事と位置づけている(※5)。
Shopify の CEO の Tobi Lütke 氏は、6月19日の X への投稿で、プロンプトエンジニアリングよりもコンテキストエンジニアリングという語のほうが好きだと書いた。Lütke 氏はその理由を、AIモデルが課題をこなせるだけの文脈をすべて与えるという中心の技能を、よりよく表すからだとしている(※3)。
「バイブコーディング」の呼び名を使った Andrej Karpathy 氏も、6月26日の投稿でこの語に賛成した。Karpathy 氏によると、プロンプトという語は、日常の利用で短い作業の説明を渡すことを連想させる。実用のアプリでは、次の一歩に必要なちょうどよい情報でコンテキストウィンドウを満たすことが要になるという(※4)。
LangChain は6月23日のブログで、Lütke 氏や Yan 氏らの見方をもとに定義を示した。
LangChain によると、コンテキストエンジニアリングは、AIモデルが課題をこなせるよう、適切な情報と道具を適切な形で渡す動的なシステムを作ることだ。同社は、AIのアプリが1つのプロンプトから複雑なエージェントのシステムへ移りつつあるため、コンテキストエンジニアリングがAIの技術者にとって最も大切な技能になりつつあるとみる。
エージェントがうまく動かない原因の多くは、モデルの力不足よりも、適切な文脈が渡っていないことにあるとも説明している。LangChain は、この考え方自体は新しくなく、ますます大切になる技能をうまく言い表す新しい語だとしている(※2)。
Anthropic は2025年9月29日に、エージェントを作る人に向けてコンテキストエンジニアリングの解説を公開した。同社は、モデルにも人と同じように注意を向けられる量の限り(attention budget)があると説明している。
同社によると、コンテキストウィンドウの中のトークンが増えるほど、モデルがその中の情報を正しく思い出す力は下がる。この現象は「context rot」と呼ばれる。そのため同社は、コンテキストを限られた資源として扱う必要があるとしている(※1)。
コンテキストエンジニアリングに関する主な出来事・ニュース
- 2025年6月12日 Walden Yan 氏「Don’t Build Multi-Agents」を公開:Cognition の Walden Yan 氏は、同社のブログで、AIエージェントを作るうえでのコンテキストエンジニアリングの原則を示した。
- 2025年6月19日 Tobi Lütke 氏、コンテキストエンジニアリングの語を推す投稿:Shopify の Lütke 氏は、X への投稿で、プロンプトエンジニアリングよりコンテキストエンジニアリングという語を好むと書いた。
- 2025年6月23日 LangChain「The rise of “context engineering”」を公開:LangChain は、ブログでコンテキストエンジニアリングを定義し、プロンプトエンジニアリングとの違いを説明した。
- 2025年6月26日 Andrej Karpathy 氏、コンテキストエンジニアリングの語に賛成する投稿:Karpathy 氏は、X への投稿で、プロンプトエンジニアリングよりコンテキストエンジニアリングという語を支持した。
- 2025年9月29日 Anthropic「Effective context engineering for AI agents」を公開:Anthropic は、AIエージェントを作る人に向けて、コンテキストエンジニアリングの考え方と手法を公開した。
- 2025年10月6日 Qizheng Zhang 氏ら「Agentic Context Engineering」を公開:Zhang 氏らは、論文の置き場の arXiv で、文脈を作業の経験から育てていく手法「ACE」の論文を公開した。
- 2025年12月4日 Hangfei Lin 氏「Architecting efficient context-aware multi-agent framework for production」を公開:Google の Hangfei Lin 氏は、同社の開発者向けブログで、エージェント開発キット ADK のコンテキストの作りを説明した。
- 2026年9月30日 IPA、科目A-1(共通知識)のシラバス案を掲載:情報処理推進機構(IPA)は、プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)と情報処理安全確保支援士試験に共通する、科目A-1のシラバス案を掲載した。
- 2026年10月1日 GUGA、生成AIパスポートのシラバスの改訂を発表:生成AI活用普及協会(GUGA)は、2027年2月の試験から生成AIパスポートのシラバスを改訂し、コンテキストエンジニアリングなどの項目を加えたと発表した。
コンテキストエンジニアリングに関する事例・研究
Claude は要約とメモで長い作業を続ける
Anthropic によると、Claude Code はやり取りの履歴をモデルに渡して要約させる。要約では、設計の決定やまだ直していない不具合、実装の細部を残し、重複した道具の出力やメッセージは捨てる。Claude Code は、圧縮した文脈と直近に開いた5つのファイルをもとに作業を続ける。Claude Code は、やることの一覧を作ってメモとして使い、作業の進み具合を追うこともできる(※1)。
Anthropic は、同社のAIモデル Claude にゲーム「ポケモン」を遊ばせた例も紹介している。Claude は記憶の形を指示されなくても、探った地域の地図や手に入れた成果、戦い方のメモを自分で残した。文脈をいったん消したあとも、Claude は自分のメモを読んで数時間にわたる作業を続けたという(※1)。
Google の ADK は渡す文脈を呼び出しのたびに組み立て直す
Google の Hangfei Lin 氏は、同社の開発者向けブログで、AIエージェントを作るための Google のオープンソースの開発キット ADK(Agent Development Kit)の作りを説明した。
Lin 氏によると、ADK は情報を保管する層とモデルに見せる層を分けている。会話の全記録や長く残す記憶、ファイルは保管する側に置かれる。ADK は、モデルを呼ぶたびに、その時点で必要な部分だけを取り出した作業用のコンテキストを組み立て直す(※6)。
ADK では、大きなデータについては、名前と要約だけがモデルに見える。エージェントは中身を必要としたときにだけ道具で読み込み、標準の設定では使い終われば作業用のコンテキストから外す。Lin 氏は、ほかのエージェントに作業を渡すときも、渡す相手に見せる文脈の範囲を絞れると説明している(※6)。
文脈を経験から育てる手法 ACE が既存の手法を上回ったという論文
スタンフォード大学、SambaNova Systems、カリフォルニア大学バークレー校の研究者らは、ACE(Agentic Context Engineering)と呼ぶ手法の論文を公開した。ACE は、モデルの重みを変えずに、文脈を作業の経験から少しずつ育てる手法だ。
ACE では、作業を進める役と、結果を振り返って教訓を引き出す役、教訓を項目として文脈に足していく役が分かれて動く。文脈全体を書き直さず項目ごとに足していくので、細かな知識が失われにくいという(※7)。
論文の要旨によると、ACE は比べた既存の有力な手法を、エージェントの課題で10.6%、金融の課題で8.6%上回った。主な実験では、オープンソースのモデル DeepSeek-V3.1 を使った。正解のラベルがなくても、実行の結果を手がかりに文脈を改善できたという。arXiv の注記によると、この論文は機械学習の国際会議 ICLR 2026 の論文だ(※7)。
コンテキストエンジニアリングの注意点と試験のシラバス
AIに渡す文脈は多ければよいわけではない
Anthropic によると、少なくともエージェントに最も高い性能を求める場面では、文脈に余計な情報が混ざる問題はコンテキストウィンドウが大きくなっても当面なくならない見込みだ。同社は、圧縮しすぎると、あとで大切だと分かる細かな文脈を失うおそれがあるとも指摘している(※1)。
Google の Lin 氏によると、コンテキストウィンドウを大きくしても、文脈の問題がすべて解決するわけではない。Lin 氏は、文脈を大きくするほどモデルの費用と最初の応答までの時間が増え、関係のない記録がモデルの注意をそらすこともあると説明している(※6)。
どこまで作り込むかは、モデルの進歩によっても変わる。Anthropic によると、賢いモデルほど細かな指図が要らなくなっている。同社は分野の進歩が速いことから、Claude でエージェントを作るチームへの最もよい助言は、これからもうまくいく最も簡単なやり方をとることだろうとしている(※1)。
IPA のシラバス案などにコンテキストエンジニアリングの語が入る
国の資格試験の出題範囲の案にも、この語が入った。IPA は、2027年度から始める予定のプロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)の科目A-1のシラバス案を公開している。この案は、中分類「AI技術」の「AIエージェント技術の特徴」の用語例に、MCP やマルチエージェントと並べてコンテキストエンジニアリングを挙げている(※8、※9)。
民間の資格では、生成AI活用普及協会(GUGA)が 生成AIパスポート のシラバスを改訂した。2027年2月の試験から使う新しいシラバスでは、第3章「AIエージェント」の中項目「AIエージェントの仕組み」に、学習項目として「コンテキストエンジニアリング」が入っている。同じ章のコーディングエージェントの項目でも、詳細キーワードにこの語が並ぶ(※10、※11)。
コンテキストエンジニアリングに関連する用語
- MCP(モデル・コンテキスト・プロトコル):AIのアプリを外部のデータや道具、決まった作業の手順とつなぐための、オープンソースの共通の規格。
- エージェントハーネス:AIエージェントのうちモデル以外の部分で、道具の実行や文脈の管理を受け持つ仕組み。
- プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称):応用情報技術者試験と高度試験を組み直して設けられる予定の、3つの国家試験。
コンテキストエンジニアリングに関する出典
※1 Anthropic「Effective context engineering for AI agents」(2025年9月29日)
※2 LangChain「The rise of “context engineering”」(2025年6月23日)
※3 Tobi Lütke「I really like the term “context engineering” over prompt engineering.」(2025年6月19日、X)
※4 Andrej Karpathy「+1 for “context engineering” over “prompt engineering”.」(2025年6月26日、X)
※5 Walden Yan「Don’t Build Multi-Agents」(2025年6月12日、Cognition のブログ)
※6 Hangfei Lin「Architecting efficient context-aware multi-agent framework for production」(2025年12月4日、Google Developers Blog)
※7 Qizheng Zhang ほか「Agentic Context Engineering: Evolving Contexts for Self-Improving Language Models」(2025年10月6日、2026年3月29日改訂、arXiv)
※8 情報処理推進機構「プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)及び情報処理安全確保支援士試験 科目A-1(共通知識)シラバス(案)Ver.0.1」(2026年9月30日掲載)
※9 情報処理推進機構「新試験制度のシラバス案について」(2026年6月30日公開、9月30日更新)
※10 生成AI活用普及協会「生成AIパスポート、2027年試験のシラバスを大幅改訂。改訂版公式テキストの予約販売および資格更新テストの受講申込受付を開始」(2026年10月1日)
※11 生成AI活用普及協会「生成AIパスポート試験シラバス(2027年2月試験より適用)」




