Context Rot(コンテキストロット)とは・意味、由来・研究・対策

最終確認日:2026年10月27日
Context Rotとは?
Context Rot(コンテキストロット)とは、AIモデルに渡す情報(コンテキスト)が長くなるほど、モデルがその中の情報を正しく扱えなくなり、答えの質が落ちていく現象のこと。英語では「Context Rot」と書く。rot は、英語で「腐ること」「朽ちること」を表す語だ。
Anthropic は Claude の開発者向けの文書で、コンテキストウィンドウ(モデルが答えを作るときに参照できる文章の全体)を、モデルの作業用の記憶にたとえている。同社によると、コンテキストウィンドウが大きいほど複雑で長い指示を扱えるが、情報が多いほど答えがよくなるとは限らない。
トークン(モデルが文章を扱うときの単位)の数が増えるにつれて、答えの正確さと情報を拾い出す力は下がっていく。この現象が context rot と呼ばれる(※1)。同じ文書の日本語版は、この語に「コンテキストの劣化」という訳を添えている(※2)。
Claude の API の標準の動きでは、会話が進むと、利用者の発言とモデルの答えがすべてコンテキストウィンドウにたまっていく。長い会話や AI エージェントの作業では、モデルが読むトークンがそれだけ増え、やがてコンテキストウィンドウの上限に近づく(※1)。
Anthropic は、モデルにも人と同じように、注意を向けられる量に限り(attention budget)があると説明している。新しいトークンが入るたびに、この限りは少しずつ減っていく。同社によると、限りが生じるのは今のモデルの作りによる。
大規模言語モデル(LLM)はトランスフォーマーという仕組みを土台にしている。この仕組みでは、すべてのトークンが互いの関係を見る。関係の数はトークンの数の2乗で増えるため、文脈が長くなるほど、モデルが一つ一つの関係をとらえる力は薄くなる。
また、モデルが学ぶデータには短い文章のほうが多いため、モデルは長い文脈にわたる関係を扱う経験が少ない。同社によると、性能はある長さで急に落ちるのではなく、なだらかに変わる。長い文脈でもモデルは高い力を保つが、短い文脈に比べると、情報を拾い出す正確さや離れた箇所をつなぐ推論が落ちることがある(※3)。
Context Rotの由来と広まった経緯
「context rot」という言い方は、2025年6月18日に、ニュース共有サイト Hacker News の投稿者が使ったものが先行例だ。投稿者は、文脈が長くなるにつれて AI の答えの質が急に落ちる現象を、この名前で呼んだ。同じ日に、ソフトウェア技術者の Simon Willison 氏が自分のブログでこの投稿を引き、語の出どころとして示した(※4)。
Context Rot という語を題に掲げた報告に、AI アプリ向けの検索データベースを開発する Chroma が2025年7月に公開した技術報告「Context Rot: How Increasing Input Tokens Impacts LLM Performance」がある。
報告によると、最新のモデルが一度に読み込める量は数百万トークンに達し、長い文脈でも性能は変わらないと考えられがちだった。Kelly Hong 氏らは、この見方を実験で確かめ直した(※5)。
Anthropic は2025年9月に公開したコンテキストエンジニアリングの解説でこの語を使い、Chroma の報告へのリンクを付けた。同社はこの現象を、コンテキストを限られた資源として扱わなければならない理由に挙げている(※3)。
Context Rotに関する主な出来事・ニュース
- 2025年6月18日 Simon Willison 氏「A quote from Workaccount2 on Hacker News」を公開:Simon Willison 氏は、自分のブログで、Hacker News の投稿者が使った「context rot」という言い方を取り上げた。
- 2025年7月14日 Chroma「Context Rot」の技術報告を公開:Chroma の Kelly Hong 氏らは、入力のトークンが増えると大規模言語モデル(LLM)の性能がどう変わるかを、18のモデルで調べた技術報告を公開した。
- 2025年9月29日 Anthropic「Effective context engineering for AI agents」を公開:Anthropic は、AIエージェントを作る人に向けたコンテキストエンジニアリングの解説で、context rot をコンテキストを限られた資源として扱う理由に挙げた。
Context Rotに関する事例・研究
Chroma の報告では、入力が長くなるほどモデルの性能が低下
Chroma の Kelly Hong 氏らは、GPT-4.1、Claude 4、Gemini 2.5、Qwen3 などを含む18のLLMを調べた。
長い文脈を扱う力の試験としてよく使われるのは、長い文書に紛れ込ませた1文を探させる「Needle in a Haystack」だ。報告によると、最新のモデルはこの試験でほぼ満点をとる。ただ、この試験が見ているのは、問いと同じ語を探し当てる単純な力に近い(※5)。
Hong 氏らは、課題の難しさを変えずに入力の長さだけを変えて、モデルの成績を比べた。単純な課題でも、入力が長くなるにつれて性能は下がった。下がり方はモデルや条件によってまちまちだった。答えに似ているが答えではない文を1つ混ぜるだけで成績は下がり、4つ混ぜるとさらに下がった。この影響は、最新のモデルを含めて、入力が長くなるほど強まった(※5)。
会話の記録から答えを探す試験では、答えに要る部分だけを渡した入力(平均で約300トークン)と、関係のない会話も含む入力(平均で約11万3,000トークン)を比べた。どのモデルでも、要る部分だけを渡したほうが成績は大幅に高かった。考える過程を経てから答える推論のモードを使っても、最新のモデルで差は残った(※5)。
誤り方には、モデルごとの違いもあった。紛らわしい文が混ざったとき、Claude Opus 4 と Claude Sonnet 4 は、確かでなければ答えを控え、答えが見つからないと返す傾向が強かった(※5)。
Anthropic のロボット課題では文脈を削っても多くは性能が大きく落ちず
Anthropic は、Claude のモデルにロボットの課題を解かせる研究で、それまでのやり取りの大部分を文脈から外す実験をした。残したのは、最初の10回分と直近の一定の回数分のやり取りだけだ。物を扱う課題では、多くの場合に性能は大きく下がらず、上がった場合もあった(※7)。
性能が統計的にはっきり下がったのは、Claude Opus 4.6 だけだった。試したモデルの中で全体に最も強かった Claude Mythos Preview は、文脈を外しても正確さがはっきりとは下がらなかった。同社は、力の弱いモデルは前の文脈で混乱することがあり、文脈を切り詰めると性能が上がるのは context rot で説明がつくとみている(※7)。
Cursor は文脈に残る道具の呼び出しの誤りを減らす
AIを使ったコードエディターを提供する Cursor は、自社のAIエージェントを改善する取り組みで、この語を使っている。同社によると、エージェントが道具の呼び出しに失敗すると、自分で直せた場合でも誤りは文脈に残る。残った誤りはトークンを無駄にし、たまった誤りがその後のモデルの判断の質を下げる(※6)。
Cursor は、道具の呼び出しで起きうる誤りを原因ごとに分け、道具ごと・モデルごとの普段の水準より大きく増えたときに知らせる仕組みを作った。原因の分からない誤りは、すべて不具合として扱う。同社によると、2026年に入ってから集中して取り組んだ期間に、道具の呼び出しの予期しない誤りは10分の1ほどに減った(※6)。
Context Rotへの対策と注意点
Anthropic は別の作業に移るときに会話を消すよう勧める
Anthropic は、情報をどれだけ入れられるかと同じくらい、何を入れるかを選ぶことが大切だとしている(※1)。
同社はコーディングを手伝う Claude Code の手引きで、今の多くのモデルは100万トークンを扱え、会話も自動で要約されるので、文脈が上限に届くことはまれだと説明している。それでも同社は、関係のない別の作業に移るときには、会話を消して新しく始めるよう勧める。絞り込んだ文脈のほうが答えはよくなり、費用も下がるためだ(※8)。
同じ手引きによると、同じ誤りを2度直させても直らないときは、3度目の指示を重ねないほうがよい。3度目の指示は、たいてい、失敗した2回分のやり取りが残った会話に足されるだけで、Claude はその失敗を読み直し続けることになるからだ。同社は、会話を消して、それまでに分かったことを1つの新しい指示にまとめて渡すよう勧めている(※8)。
性能の劣化はどのモデルにも現れ、実際にはさらに大きい見込み
Anthropic によると、劣化の度合いはモデルによって違うが、劣化そのものはどのモデルにも現れる(※3)。Chroma の報告は、性能が下がる仕組みそのものは説明していないとしている。報告の課題は、入力の長さの影響だけを見るために、わざと単純にしてある。Hong 氏らは、実際の使い方では課題がもっと複雑なので、性能の落ち方はさらに大きくなると見込んでいる(※5)。
Context Rotに関連する用語
- コンテキストエンジニアリング:AIモデルが答えを作るときに読む情報の全体を、作業の段階ごとに選んで整える技術。
- エージェントハーネス:AIエージェントのうちモデル以外の部分で、道具の実行や文脈の管理を受け持つ仕組み。
Context Rotに関する出典
※1 Anthropic「Context windows」(Claude の開発者向けの文書)
※2 Anthropic「コンテキストウィンドウ」(Claude の開発者向けの文書の日本語版)
※3 Anthropic「Effective context engineering for AI agents」(2025年9月29日)
※4 Simon Willison「A quote from Workaccount2 on Hacker News」(2025年6月18日、Simon Willison のブログ)
※5 Kelly Hong、Anton Troynikov、Jeff Huber「Context Rot: How Increasing Input Tokens Impacts LLM Performance」(2025年7月14日、Chroma の技術報告)
※6 Cursor「Continually improving our agent harness」(2026年4月30日)
※7 Anthropic「Claude plays robotics」(2026年7月9日)
※8 Anthropic「Best practices for Claude Code」(Claude Code の文書)




