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電子透かし(Digital Watermark)とは・意味、仕組み・C2PAとの違い・事例

最終確認日:2026年10月26日

電子透かしとは?

電子透かしとは、画像や音声、文章などのデータに、目印となる情報を埋め込む技術のこと。生成AIの分野では、AIが作ったコンテンツに人には分からない目印を入れておき、あとで専用のツールで調べてAIで作ったものかを見分けるために使われている(※1、※2)。英語では digital watermark や watermark と呼ばれ、透かしを入れることは watermarking と呼ばれる(※1、※7)。

Google は、Google DeepMind が開発した「SynthID」を、AIが作った画像・動画・音声・文章に人には分からない電子透かしを直接埋め込む手法と説明している(※1)。

OpenAI は日本語の発表で、文章に入れる透かしを「テキスト電子透かし」と呼んでいる(※2)。総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」も、人の判断を挟むための工夫の例に、「生成物であることを示す透かし」を入れることを挙げている(※3)。

電子透かしという技術は、生成AIより前から使われてきた。文化庁の著作権の解説は、著作物や権利者、利用の条件といった「権利管理情報」を著作物に付ける手段の例として、電子透かしを挙げている(※4)。

Google DeepMind によると、画像の隅に入れる従来の透かしは、簡単な編集で切り取られることがある。SynthID は、目印を画像の画素そのものに埋め込むことで、人の目には見えないが検出はできるようにしている(※5)。

電子透かしの仕組み・技術

Google DeepMind と OpenAI の説明をもとに整理すると、電子透かしは、AIがコンテンツを作るときに目印を埋め込み、あとで専用のツールで調べるという流れで働く。

電子透かしが働く流れGoogle DeepMind の SynthID と OpenAI の textGrain の説明をもとに整理
1
埋め込むAIが画像や文章などを作るときに、人には分からない目印を入れるSynthID は画像では画素に、textGrain は文章では単語の選び方に目印を入れる
2
広がるコンテンツが共有され、編集や圧縮を受けるSynthID は、フィルターや色の変更、圧縮のあとも検出できるよう設計されている
3
調べる専用の検出ツールで、目印があるかを調べるSynthID Detector が調べられるのは、SynthID を採り入れた会社のAIで作ったものだけ
4
読み取る検出の結果を、ほかの手がかりと合わせて判断する透かしが見つからなくても、AIで作っていないとは言い切れない
出典:Google DeepMind「Identifying AI-generated images with SynthID」(2023年8月29日)
OpenAI「EU のテキスト来歴規則への取り組み」(2026年10月5日)
Google「SynthID Detector」
以上をもとに編集部作成

電子透かしの目印の入れ方はコンテンツの種類で異なる

目印の入れ方は、コンテンツの種類によって違う。

  • 画像向けの SynthID は、透かしを入れるモデルと透かしを見つけるモデルを一緒に学習させて作られた(※5)。
  • 動画では、SynthID は動画のすべてのコマの画素に目印を入れる(※6)。
  • 文章では、目印を単語の選び方に入れる。AIが文章を扱うときの単位をトークンと呼び、単語や単語の一部がこれにあたる。ChatGPT などのもとになる大規模言語モデルは、次に来るトークンの候補ごとに出やすさの点数を付け、1つずつ選んで文章を作る。SynthID の文章向けの透かしは、この点数を調整して目印を入れる(※6)。OpenAI の「textGrain」も、モデルが単語を選ぶときに、目に見えない統計的な目印を加える(※2)。

透かしの検出には専用のツールが要る

透かしを見つけるには、専用の検出ツールを使う。OpenAI の検出ツールは、文章の中から目印を探し、OpenAI の透かしが含まれているかを判定する(※2)。Google の「SynthID Detector」は、アップロードされたファイルを調べ、透かしが検出されたかどうかを示す。動画と音声では、透かしのある区間も示す(※1)。

SynthID の透かしは編集後も検出できる設計だが完全ではない

Google DeepMind によると、画像に入れた SynthID の透かしは、フィルターをかける、色を変える、圧縮して保存するといった変更のあとも検出できるように設計されている(※5)。ただし Google は、透かしは完全ではないとしている。同社によると、変換を何度も試されると、検出されない変換が見つかる可能性がある(※1)。

Google DeepMind によると、SynthID の文章向けの透かしは、長く多様な文章で最もよく働く。一方、文章を大きく書き換えたり別の言語に翻訳したりすると、SynthID が文章の透かしを検出するときの確信度は、大きく下がることがある。答えがほぼ決まっている事実の質問への回答でも、透かしは効きにくい(※6)。

電子透かしとC2PA・AI判定ツールとの違い

Google と OpenAI は電子透かしを、メタデータで来歴を記録する方式や一般のAI判定ツールと比べて説明している(※1、※7)。来歴は、コンテンツの出所や作成・編集の経緯を指す(※2)。メタデータは、作成者や作成日時など、ファイルと一緒に保存される情報だ(※5)。来歴を記録する方式の標準には、コンテンツの来歴の技術標準を作る団体 C2PA の仕様がある(※8)。

仕組み どう見分けるか 得意なこと 限界
電子透かし コンテンツそのものに埋め込んだ目印を検出する メタデータが消えても、目印を残せる。スクリーンショットなどの変換にも、メタデータより強いことがある 見分けられるのは、その透かしを採り入れたAIで作ったものだけ
メタデータによる来歴の記録(C2PA の方式) メタデータと暗号の署名で、出所や作成・編集の履歴をファイルに付けて伝える 透かしよりも多くの情報を伝えられる アップロードやダウンロード、ファイルの形式やサイズの変更、スクリーンショットで、消えたり壊れたりすることがある
一般のAI判定ツール 生成モデルが残す痕跡やパターンを分析し、AIで作った可能性を推し量る 透かしのないコンテンツも対象にできる 電子透かしより信頼性が低いことがある

OpenAI は、ひとつの方式だけでは十分でないとして、C2PA のメタデータと SynthID の透かし、検証のツールを組み合わせる方針を示している(※7)。

電子透かしが広まった背景

生成AIで作った画像や文章は、AIで作っていないものと見分けにくくなってきた(※1、※5)。Google DeepMind は2023年に SynthID を公開した際、誤った情報が意図的にも意図せずにも広まる危険を挙げ、AIで作ったコンテンツを見分けられることが大切だと説明した(※5)。

国際的なルールづくりでも、電子透かしが取り上げられてきた。G7の広島AIプロセス(※9)でまとまった「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針」(2023年10月30日)は、技術的に可能な場合にコンテンツの認証と来歴の仕組みを開発し、導入することを原則の一つに挙げた。この仕組みは、電子透かしなどで利用者がAIの作ったコンテンツを見分けられるようにするものだ(※3)。

EUのAI法の第50条は、生成AIの提供者に対し、AIが作った音声・画像・動画・文章に機械で読める形で印を付け、AIで作ったと検出できるようにすることを求めている(※10)。標準的な編集を補助するだけの機能などは、この義務の対象から外れる(※17)。OpenAI は、文章への透かしの導入を、EUのAI法の求めに応える取り組みとして発表した(※2)。

電子透かしに関する主な出来事・ニュース

電子透かしに関する事例・研究

OpenAI は文章の透かしを段階的に導入する

OpenAI は2026年10月5日の発表で、文章に入れる透かし textGrain を段階的に導入するとした。EUでは、すべてのプランの対象の ChatGPT と Codex の利用者に、数週間かけて導入する。API(ほかのソフトウェアから OpenAI のモデルを呼び出して使う仕組み)では、世界の顧客が一部のモデルで透かしを選んで有効にできる。API の透かしは、初めから有効にはなっていない(※2)。

文章の透かしを調べる検出ツールは、提供を始める時点では一般に公開しない。OpenAI は、透かしの見逃しや誤った判定のおそれを理由に、当初は審査を通った研究者と専門機関だけに使わせるとしている(※2)。OpenAI と米国の大学の研究者は、textGrain の仕組みを数式で示した技術報告も公開した(※11)。

OpenAI の評価では、短い文章や言い換えで透かしの検出率が下がる

OpenAI の評価では、文章が短いほど、透かしを検出しにくかった。透かしの入っていない文章を、入っていると判定する誤りを、偽陽性と呼ぶ。偽陽性の割合の目標を1%にした条件で、心理学などの内容の文章を調べると、200トークンでは約80%、400トークンでは約95%の文章で透かしを検出できた。数学のように単語を選ぶ自由が少ない内容では、検出できた割合はかなり低かった(※2)。

単語を同義語に置き換える編集でも、透かしは弱まった。400トークンの文章で単語の10%を置き換えると、検出できた割合は約92%から66%に下がり、25%を置き換えると17%になった(※2)。

言い換えとtextGrain の検出率OpenAI の評価。400トークンの文章で、単語の一部を同義語に置き換えたときに、透かしを検出できた割合
置き換えなし92%
単語の10%を置き換え66%
単語の25%を置き換え17%
置き換えなしの92%と、10%を置き換えたときの66%は、発表で「約92%から66%」と示された値。本文の「400トークンで約95%」とは別の評価の値。トークンは、AIが文章を扱うときの単位で、単語や単語の一部にあたる。
出典:OpenAI「EU のテキスト来歴規則への取り組み」(2026年10月5日)

提携先のAIで作ったものも Google の SynthID で確認可能に

Google の SynthID Detector では、画像・動画・音声のファイルが Google のAIで作られたか、OpenAI・NVIDIA・Kakao などの提携先のAIで作られたかを調べられる。Google によると、Apple もこれから加わる(※12)。

Google によると、SynthID の透かしはこれまでに1,800億を超える画像と動画に入れられ、音声では合計24万年分の長さに入れられた。検索や Gemini のアプリ、Chrome に組み込んだ確かめの機能は、1日に100万件を超える依頼を受けているという(※12)。

Google DeepMind はAIが設計したタンパク質への透かしを発表

Google DeepMind は、2026年9月30日、AIが設計したタンパク質に透かしを入れる SynthID Bio を発表した。タンパク質の配列では、アミノ酸の選び方を少しずつ導いて目印を入れる。立体の構造の予測では、原子の座標を調整する(※13)。

Google DeepMind によると、透かしを入れて設計したタンパク質は3種類の標的のタンパク質を使った実験で、標的に結び付く割合や結び付きの強さなどが透かしのないものと同じ水準だった。同社によると、DNAの合成を受け付ける会社に配列が注文されたとき、透かしはその配列が安全の対策を備えたモデルから生まれたことを示す手がかりになりうる(※13)。

電子透かしの英語での言い方・略語

英語の言い方 意味 使っている主体
text watermarking 文章に入れる電子透かし Google DeepMind(※6)
content provenance コンテンツの出所や、作成・編集の経緯を示すこと(来歴) OpenAI、C2PA(※7、※8)
Content Credentials ファイルの出所や履歴を記録する情報 OpenAI(※2、※7)
Coalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA) コンテンツの来歴の技術標準を作る団体の正式名 C2PA(※8)
marking / labelling AIが作ったコンテンツに機械で読める印を付けること/人に向けて表示すること 欧州委員会(※10、※15)
false positive 透かしの入っていないものを、入っていると判定する誤り OpenAI と米国の大学の研究者(※11)

電子透かしの検出の限界と、サービスごとの透かしの対象

電子透かしの検出の結果から分かることは限られている。OpenAI は、文章の透かしについて、次の点を挙げている(※2)。

  • 透かしは、人がどれだけ判断や編集に関わったかを示さない。
  • 透かしは、文章の権利がだれにあるか、使い方が適法か、だれが責任を負うかを決めない。
  • 透かしは、文章を特定の人や組織、アカウントと結び付けない。プロンプトや会話とも結び付けない。
  • 透かしは、文章の内容が正しいかを確かめるものではない。

透かしが見つからなくても、人が書いた文章だとは言い切れない。OpenAI によると、短い文章や編集・翻訳を加えた文章では、透かしを確実に検出できない場合がある。透かしに対応していないモデルや他社のツールで作った文章、透かしの導入前に作った文章の可能性もある(※2)。

Google も、SynthID Detector で透かしが検出されなくてもAIで作ったり加工したりした可能性は残るとして、ほかの手がかりも集めるよう勧めている(※1)。

仕事でAIを使う人にとっては、使っているサービスが出力に透かしを入れているかを知っておくことも大切だ。Anthropic は2026年8月の発表で、これから出す Claude のモデルが作る文章に透かしを入れ、提供を始める時点では地域を限らず適用するとした。2026年8月2日より前に出したモデルにも、数か月かけて透かしを加えるという(※18)。

OpenAI が ChatGPT と Codex の文章に透かしを入れる対象は、当初はEUの対象の利用者だけだ(※2)。

生成AIパスポートのシラバスが「電子透かし」を挙げている

生成AI活用普及協会が2027年2月の試験から適用する生成AIパスポート試験のシラバスは、中項目「各モダリティの生成AI」(画像・音楽・音声・動画の生成AI)の詳細キーワードに「電子透かし」「来歴情報」「C2PA」を挙げている(※14)。

電子透かしに関する出典

※1 Google「SynthID Detector」
※2 OpenAI「EU のテキスト来歴規則への取り組み」(2026年10月5日)
※3 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)
※4 文化庁「著作権テキスト-令和8年度版-」
※5 Google DeepMind「Identifying AI-generated images with SynthID」(2023年8月29日)
※6 Google DeepMind「Watermarking AI-generated text and video with SynthID」(2024年5月14日)
※7 OpenAI「Advancing content provenance for a safer, more transparent AI ecosystem」(2026年5月19日公開、7月31日・10月5日更新)
※8 C2PA「About C2PA」
※9 総務省「広島AIプロセス」
※10 European Commission「Code of Practice on Transparency of AI-generated Content」(2026年10月19日更新)
※11 Xiang Li ほか「textGrain: Entropy-Calibrated Watermarking for Language Model Text」(2026年10月5日、OpenAI のサイト)
※12 Google「Google expands SynthID Detector for AI content」(2026年10月7日)
※13 Google DeepMind「Introducing SynthID Bio」(2026年9月30日)
※14 生成AI活用普及協会「生成AIパスポート試験シラバス(2027年2月試験より適用)」
※15 European Commission「Commission publishes Code of Practice on marking and labelling AI-generated content」(2026年6月10日)
※16 Google「SynthID Detector — a new portal to help identify AI-generated content」(2025年5月20日)
※17 European Commission「Quick Facts: Transparency rules for AI systems」(2026年7月29日更新)
※18 Anthropic「How Claude’s text watermark works」(2026年8月14日公開、9月1日更新)

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