承認疲れ(Approval Fatigue)とは・意味、由来・減らす仕組み・調査

最終確認日:2026年10月27日
承認疲れとは?
承認疲れとは、AIエージェントなどから操作の許可を何度も求められるうちに、人が中身をよく確かめずに承認するようになること。英語では「approval fatigue」と書き、「permission fatigue」とも呼ばれる。AIエージェントは一般に、目標に向けて自ら手順を決め、道具を使って作業を進めるAIを指す。
開発支援のエージェント Claude Code を提供する Anthropic は、承認疲れを、利用者が承認する中身にあまり注意を払わなくなる状態と説明している(※1、※2)。許可の確認は、本来は人がエージェントの行動を見張るための仕組みだ。Anthropic によると、確認の回数が増えるほど1回ごとの注意が薄れ、見張りの役目を果たさなくなるおそれがある(※3)。
人の確認を安全の要とする考え方は、一般にヒューマン・イン・ザ・ループ(human-in-the-loop)と呼ばれる。承認疲れは、その確認が回数の多さで働かなくなる問題を指し、安全性と使いやすさの両方にかかわる(※1、※3)。
承認疲れの由来
AIエージェントの文脈で approval fatigue の語を使った先行例には、Anthropic の2025年10月20日の記事がある。Anthropic は Claude Code に、隔離した実行環境(サンドボックス)を研究プレビューとして入れたことを伝え、その理由として承認疲れを挙げた。
当時の Claude Code は、初めの設定では読み取りだけを許し、ファイルの変更やほとんどのコマンドの実行の前に許可を求めていた。記事によると、「approve」を押し続けると開発が遅くなるうえ、承認の中身に注意が向かなくなり、かえって安全が損なわれうる(※1)。
似た問題は、別の名前でも呼ばれている。ソフトウェアの安全に取り組む非営利の団体 OWASP は、エージェント型AIの脅威をまとめた手引きで、この問題を「Overwhelming Human in the Loop」と呼んでいる。
人の確認を、過剰な要求で圧倒する脅威という意味だ。手引きによると、この脅威は複数のエージェントが動くAIの仕組みで、人の確認が処理に追いつかないときに起きる。攻撃者は介入の要求を大量に送り、判断の疲れ(decision fatigue)や認知の負荷を利用者に強いる。その結果、急いだ承認や確認の甘さが生まれる(※6)。
OWASP の手引きは、従来の IT の alert fatigue(警報疲れ)との違いも挙げ、AIエージェントは誤検知を自ら次々に上げうるため人が本物の脅威を見分けにくくなるとしている(※6)。
承認疲れに関する主な出来事・ニュース
- 2025年10月20日 Anthropic「Beyond permission prompts: making Claude Code more secure and autonomous」を公開:Anthropic は、Claude Code にサンドボックスの機能を研究プレビューとして入れたと発表し、許可の確認に何度も応じ続けることが承認疲れを招きうると説明した。
- 2026年3月25日 Anthropic「How we built Claude Code auto mode: a safer way to skip permissions」を公開:Anthropic は、承認を別のAIモデルの判定に任せる Claude Code の auto mode の作り方を説明した。
- 2026年5月25日 Anthropic「How we contain Claude across products」を公開:Anthropic は、自社の製品でエージェントの行動を囲い込む方法をまとめ、Claude Code では公開から数週間で承認疲れが現れたと振り返った。
- 2026年8月7日 Anthropic、Claude Code の auto mode を標準にすると発表:Anthropic は、8月14日から、Pro・Max・Team のプランで Claude Code の新しいセッションを auto mode で始めると発表した。10月22日の更新では、同じプランのほとんどの Claude のアプリでも、翌週から順に新しいセッションの標準にするとした。
- 2026年8月24日 Margaret Mitchell 氏ら「AI Agents Push Humans Out of the Loop」を公開:Mitchell 氏、Avijit Ghosh 氏、Samir Passi 氏は arXiv で、今のAIエージェントの開発と導入のやり方が、人による監督の質を下げていると論じる論文を公開した。
- 2026年9月28日 Claude Code v2.1.284、auto mode をすべてのプランの標準に:Anthropic は、権限のモードを設定していないターミナルと VS Code の対話のセッションを、どのプランと接続先でも auto mode で始めるように変えた。
- 2026年10月23日 Anthropic「Claude Duet Safety, Privacy, and Security」を公開:Anthropic は、利用者の代わりに作業するエージェント Claude Duet(研究プレビュー)の安全の仕組みを説明し、承認を求める頻度の調整に時間をかけたとした。
承認疲れを減らす仕組み
エージェントが動ける範囲を先に区切り、確認を減らす
Anthropic が承認疲れへの最初の策としたのは、エージェントが自由に動ける範囲を先に区切ることだった(※3)。Claude Code のサンドボックスは、書き込めるフォルダと、つないでよいサーバーをOSの機能で限る。範囲の中のコマンドは確認なしで動き、範囲の外に出ようとしたときだけ利用者に知らせる(※1)。Anthropic は、社内の利用で許可の確認が84%減ったとしている(※1、※3)。
承認を別のAIモデルの判定に任せる
auto mode は、人の代わりに分類器と呼ぶ別のAIモデルが操作を確かめる Claude Code の設定だ。Anthropic によると、ファイルを読むだけの操作や、作業中のフォルダの中での編集は判定を通さずに進む。シェルのコマンドや外部との通信など、害が出うる操作だけを分類器が調べる(※2)。分類器が止めることを狙うのは、取り消せない操作や壊す操作、作業の環境の外に向かう操作だ(※4)。
分類器が操作を止めると、Claude は多くの場合、より安全な別の方法を探すか、利用者に直接許可を求める。続けて3回、または1つのセッションで20回止められると、auto mode は一時的に止まり、Claude Code は利用者に許可を求める形に戻る。求められた操作を利用者が承認すると、auto mode に戻る(※4、※8)。
auto mode で始まる範囲は、その後広がった。Claude Code の変更履歴によると、2026年9月28日の v2.1.284 から、どのプランと接続先でもターミナルと VS Code の対話のセッションが auto mode で始まる。権限のモードを設定ファイルで決めているときは、その設定が優先される(※9)。
設定で auto mode を止めているときや、対応しないモデルを使うときは、許可を1つずつ求める形で始まる(※8)。
Claude Duet は承認を求める場面を決め、頻度を調整した
Claude Duet は、利用者が席を外している間もアカウントをまたいで作業するエージェントで、研究プレビューとして提供されている。Anthropic は、Claude Duet が承認を求める頻度の調整に多くの時間をかけたとしている。Anthropic によると、求める回数が多すぎると人は承認の画面を次々に押すようになり、十分に考えずに承認することもある(※5)。
慎重な扱いが要るメッセージの送信や、支払い・削除などの前に、Claude Duet は操作と行き先と中身を示す。受け取る人もすべて示し、そのうえで利用者の承認を待つ。支払いや送金、注文の削除、アカウントの作成などは、何度承認していても「今後は尋ねない」の対象にならない(※5)。
OWASP はリスクの低い承認の自動化と回数の上限を勧める
OWASP の手引きは人の確認を守る対策として、リスクの低い承認を自動にし、影響の大きい作業には人の確認を求めることを挙げている。AIが出す通知や承認の要求に回数の上限を設けることや、確認の仕事を複数の担当者に振り分けることも勧めている(※6)。
承認疲れに関する調査・研究
Claude Code の利用者は許可の確認の9割以上を承認
Anthropic によると、Claude Code の利用者は許可の確認の約93%を承認していた(※2、※3)。2026年8月の発表では、この割合を97%としている。Anthropic によると、確認の多くは安全な決まった命令についてのものとみられる。それでも、これほど高い割合は、多くの利用者が1件ずつ確かめずに反射的に承認していることをうかがわせる(※4)。
Claude が作業の計画を示して承認を求めたときは、利用者は39%を退けていた。個々の許可の確認を退けた割合は3%にとどまる(※4)。Anthropic の5月の記事によると、慣れた利用者が自動で承認する頻度は、新しい利用者の約2倍だ。慣れた利用者は、作業の途中でエージェントを止めることも、新しい利用者より多い(※3)。
Anthropic の試験で危険なコマンドを止めた人は13.6%
Anthropic は、調査会社を通じて報酬を払った1,053人の試験者に、試験用の環境でコードを書く作業をしてもらった。作業の途中で許可の確認の1つを明らかに危険なコマンドに差し替え、試験者が承認するかを調査会社が記録した。差し替えたのは画面の文字だけで、承認しても危険な操作は実行されない(※4)。
危険なコマンドを見抜いて止めた試験者は、1,053人のうち143人(13.6%)だった。auto mode は同じコマンドの89%を止めた。試験者が止めた割合は、作業の初めの約17%から、それまでに50回以上の確認を受けたあとでは約5%に下がった(※4)。
試験者は、自分の仕事のコードではなく、試験用の環境で作業した。差し替えたのは画面の文字だけで、承認しても危険な操作は実行されない。
出典:Anthropic「Auto mode is now the default in Claude Code for Pro, Max, and Team plans」(2026年8月7日、10月22日更新)
Mitchell 氏らは承認疲れに組織の側の手当ても要ると論じた
Hugging Face の Margaret Mitchell 氏と Avijit Ghosh 氏、Data & Society の Samir Passi 氏は、2026年8月に arXiv で公開した論文で承認疲れを取り上げた(※7)。
論文は、特定の立場を論じる形の論文(position paper)だ。3氏によると、利用者はエージェントが作業を続けるために出す確認を何度も承認することになり、それが承認する中身に注意を払わなくなる承認疲れにつながる(※7)。
3氏は、画面や道具の改善だけでは、長い作業で生じる承認疲れを解決できないと述べている。3氏は開発者に、重要な場面で利用者を立ち止まらせる仕組みを求めている。3氏はエージェントを導入する組織にも、疲れの兆しに気づくための研修や、確認の担当を交代させる決まりを求めている(※7)。
承認疲れの英語での言い方と近い語
| 英語の言い方 | 意味 | 承認疲れとの関係 | 使っている主体 |
|---|---|---|---|
| approval fatigue | 承認を何度も求められ、承認する中身に注意を払わなくなること | 同じ現象 | Anthropic、Mitchell 氏ら(※1、※7) |
| permission fatigue | 許可の確認の多さによる疲れ。Anthropic は、auto mode を使う Gusto の例の説明で、技術者を確認そのものを外す方へ向かわせていたものとして書いた | 同じ現象 | Anthropic(※4) |
| prompt fatigue | 確認の表示の多さによる疲れ。Claude Code の説明書が、auto mode の向いている使い方として「reducing prompt fatigue」と書く | 同じ現象 | Anthropic(※8) |
| decision fatigue | 判断を重ねることによる疲れ。攻撃者が人の確認を圧倒するときに利用する | より広い疲れ | OWASP(※6) |
| Overwhelming Human in the Loop | 過剰な要求で人の確認を圧倒する脅威 | 攻撃者が引き起こす脅威 | OWASP(※6) |
| alert fatigue | 警報が多すぎて担当者が見落とすこと。OWASP は、AIエージェントの脅威と比べる相手として挙げた | 比べる相手 | OWASP(※6) |
承認疲れの数字の読み方と確認の仕組みの限界
承認の割合や試験の結果は、Anthropic が自社で集めた利用の記録と、自社の依頼した試験から出した数字だ。承認の割合は発表によって違い、試験も実際の仕事ではなく試験用の環境で行われた(※2、※3、※4)。
自動の確認にも見落としはある。Anthropic によると、auto mode の分類器は、社内の利用から集めた52件の行き過ぎた操作のうち、17%を見逃した。Anthropic は、auto mode は影響の大きい基盤を扱う作業で、人の注意深い確認の代わりにはならないとしている(※2)。
人が1つずつ確かめる方式は、確かめる人に知識があることを前提にしている。Anthropic は5月の記事で、知識労働者向けの Claude Cowork について、技術に詳しくない人に bash の命令の判断を求めるのは無理があるとしている。
bash は、コマンドを打ってコンピューターを操作する道具だ。Anthropic は、承認に専門の知識が要るときは、管理者が常に効く境界を設けることを勧めている(※3)。AIエージェントに仕事を任せるときは、どの操作で確認が出るのか、まとめて許可した範囲がどこまで及ぶのかを先に知っておくと良いだろう。
承認疲れに関連する用語
- 封じ込め:AIモデルやAIエージェントが届く範囲をAIの外側の仕組みで区切り、意図しない動きの影響が外に及ばないようにする安全対策。
- ヒューマン・イン・ザ・リード:人がAIを道具として統制し、物事を決める主導権と価値を生み出す主導権を持つという考え方。
承認疲れに関する出典
※1 Anthropic「Beyond permission prompts: making Claude Code more secure and autonomous」(2025年10月20日)
※2 Anthropic「How we built Claude Code auto mode: a safer way to skip permissions」(2026年3月25日)
※3 Anthropic「How we contain Claude across products」(2026年5月25日)
※4 Anthropic「Auto mode is now the default in Claude Code for Pro, Max, and Team plans」(2026年8月7日、10月22日更新)
※5 Anthropic「Claude Duet Safety, Privacy, and Security」(2026年10月23日)
※6 OWASP「Agentic AI – Threats and Mitigations」(2025年2月17日、2025年12月の Version 1.1)
※7 Margaret Mitchell、Avijit Ghosh、Samir Passi「AI Agents Push Humans Out of the Loop」(2026年8月24日、arXiv)
※8 Anthropic「Choose a permission mode」
※9 Anthropic「Claude Code changelog」




