トラステッドアクセス(Trusted Access)とは・意味、由来・主なプログラム・事例

最終確認日:2026年10月31日
トラステッドアクセスとは?
トラステッドアクセスとは、悪用のおそれがある高度なAIの能力を、審査を通った利用者に絞って使えるようにする提供の枠組みのこと。英語では「trusted access」と書く。OpenAI の日本語版の発表には、「トラステッドアクセスプログラム」(※1)や「trusted access(審査制アクセス)」(※2)という表記がある。
トラステッドアクセスは1つの制度の名前ではない。OpenAI はサイバー防御向けのプログラムの名前に「Trusted Access for Cyber」と入れ、Anthropic は「Cyber Verification Program」などを trusted access のプログラムと説明している(※3、※4、※5)。
モデルの能力だけでなく、誰が使うかによって提供の範囲を分ける点に特徴がある。Anthropic によると、一般に提供する Claude Fable 5.1 と、trusted access のプログラムだけで提供する Claude Mythos 5.1 は同じモデルだ。
Mythos 5.1 は、サイバーセキュリティやライフサイエンスの制限が仕事に影響する、審査を受けた個人と組織に向けて、より制限のゆるい安全対策を備える(※4)。OpenAI は、サイバー能力のリスクはモデルだけで決まらず、利用者、その人を信頼できるかを示す手がかり、与えたアクセスの段階にも左右されるとしている(※6)。
トラステッドアクセスの由来と広まった背景
各社が説明する理由の1つは、同じ能力が守りにも攻めにも役立つことだ。このような性質はデュアルユースと呼ばれる。Anthropic によると、脆弱性を見つけて直す能力は、悪意のある者が脆弱性を突くのにも使える。そこで同社は、一般に公開するモデルの安全対策を慎重に設定し、サイバー関連の作業の多くを遮断している(※3)。
OpenAI は、自分のコードの脆弱性を探すという同じ行為でも目的を見分けるのが難しい場合があり、そのために制限が善意の取り組みの妨げになってきたと説明する(※5)。
OpenAI は2025年7月17日の ChatGPT エージェントのシステムカードで、生物防御やライフサイエンスに取り組む一部の審査済みの顧客に向けて、制限をゆるめた版を提供する trusted access のプログラムを作っていると書いた(※7)。同社は同年12月10日の発表で、サイバー防衛に向けたプログラムも近く導入するとした(※1)。
2026年6月には Anthropic も、サイバーセキュリティの組織がより体系的に申し込める trusted access のプログラムと、生物学向けのプログラムを計画していると発表した(※8)。
政府の発表にも、この語が出てくる。英国政府は2026年10月24日、AI Biosecurity Lab の設立の発表で、OpenAI の trusted access と Anthropic の trusted model access の提供を挙げ、Google DeepMind も trusted access の提供を目指すと書いた(※9)。
米国の2026年6月2日の大統領令は、語としては「trusted partners」(信頼できる相手)を使う。この命令は、サイバー能力の基準で指定した最先端のモデルについて、任意の枠組みを設計するよう関係機関に求めた。枠組みには、開発者が政府と協力して、早く使える相手を選ぶことなどが入る。同じ節は、新しいモデルの公開などに政府の許可を義務づける権限を与えるものではないとしている(※10)。
トラステッドアクセスの審査と利用の条件
OpenAI と Anthropic はアクセスを仕事の範囲で段階に分ける
OpenAI と Anthropic のプログラムは、仕事の範囲に応じてアクセスを段階に分けている。OpenAI は2026年8月、サイバー防御向けのプログラム Daybreak に2つの段階を設けた。
Daybreak Blue は多くの守る側に勧める入口で、Daybreak Red は専用に学習させたモデルを、許可された脆弱性の調査やセキュリティの試験などに使わせる(※11)。Anthropic の Cyber Verification Program には次の3つの段階がある(※3)。
- Defense Access:インシデント対応(攻撃などの問題が起きたときの対応)やマルウェアの解析など、守りの作業が対象。
- Red Team Access:許可を得た相手へのペネトレーションテストなどが加わる。ペネトレーションテストは、攻撃者の手口でシステムの弱点を試す検査だ。個人の研究者は、2026年10月の発表の時点では対象外となっている。
- Specialized Access:遮断が最も少なく、航空機の運航システムや電力網など、人命や市場に影響しうるシステムの試験を許可された一部の組織に限る。2026年10月の発表の時点では、この段階の全組織を Anthropic が米国政府と協力して詳しく審査している。
トラステッドアクセスの条件には本人確認や組織の管理体制がある
OpenAI は Daybreak の利用を、本人確認、アカウントの安全対策、監視、用途の制限、法的な誓約によって管理している。個人のアカウントには、2026年9月1日からハードウェアのセキュリティキーの使用を求めている(※11)。
ライフサイエンス向けのモデル GPT-Rosalind の参加組織に求める条件には、公益のある正当な研究であること、不正利用を防ぐ体制があること、承認した人だけが使える環境であることが入っている(※2)。Anthropic は、すべての申請者を確かめたうえで、段階ごとに必要なセキュリティ対策の証明を求める(※3)。
悪用を監視するためのデータの保存と例外
Anthropic は悪用を監視するため、Cyber Verification Program に登録した組織にデータの保存を求めている。例外もある。顧客がデータを自分で管理できる新しい仕組みの提供までの間、データを保存せずに Fable 5.1 か Mythos 5.1 を使える組織は、このプログラムも保存なしで使える(※3)。
OpenAI は2026年4月の発表で、データを保存しない方式のように利用状況を確かめにくい場合には、制限のゆるいモデルの利用に制約が付くことがあるとした(※6)。同社のヘルプでは、Daybreak の承認だけで保存なしの利用が標準で付くわけではない(※12)。
トラステッドアクセスの主なプログラムと提供状況
| プログラム | 提供元 | 分野 | 対象と審査 | 使えるもの・拒否が減るモデル |
|---|---|---|---|---|
| Daybreak(Trusted Access for Cyber を含む) | OpenAI | サイバー防御 | 承認された個人と組織(2026年8月の発表)。ヘルプでは、Red は個人では申請できない | Blue は GPT-5.6 Sol や GPT-6 Sol など、Red は GPT-5.5-Cyber や Astra など。GPT-5.6-Cyber は Red に加えて追加の承認が必要 |
| GPT-Rosalind の提供の枠組み | OpenAI | ライフサイエンス | 要件を満たす組織。API は資格の審査と組織の承認が必要 | GPT-Rosalind |
| Cyber Verification Program | Anthropic | サイバー防御 | 3段階。段階ごとに確認の条件が違う | Claude Opus 5.5、Claude Sonnet 5.5、Claude Mythos 5.1 など |
| Life Sciences Verification Program | Anthropic | ライフサイエンス | 審査を通ったライフサイエンスのチームや機関。2026年9月にベータ版として始めた。ベータ版の間は、組織に属さない個人は対象外 | Claude Mythos 5.1、Claude Opus 5.5、Claude Sonnet 5 など |
| Fairwind Program | Google DeepMind | サイバー防御 | 政府、重要インフラの事業者、中核の技術基盤を優先。全申請者を審査 | サイバー防御の能力を持つ Gemini 4 Argon(一部の提携先)、CodeMender。Google は2026年10月の発表で、Gemini 4 Carbon も一部の担い手から段階的に提供するとした |
※2026年10月時点。Daybreak は※13・※11・※12、GPT-Rosalind は※14、Cyber Verification Program は※3、Life Sciences Verification Program は※4・※15・※16、Fairwind Program は※17・※18 による。Google DeepMind のページの語は「trusted partners」だ。Claude Mythos 5.1 は、2026年9月の発表の時点では一部の米国の組織だけが使えた(※4)。
トラステッドアクセスに関する主な出来事・ニュース
- 2025年7月17日 OpenAI「ChatGPT Agent System Card」を公開:OpenAI は、生物防御やライフサイエンスの一部の審査済みの顧客に向けた trusted access のプログラムを作っているとした。
- 2025年12月10日 OpenAI「AI の能力進化に対応したサイバーレジリエンスの強化」を発表:OpenAI は、サイバー防衛に取り組む適格な利用者に、最新モデルの高度な機能を段階的に提供するプログラムを近く導入するとした。
- 2026年2月5日 OpenAI「Trusted Access for Cyber」を発表:OpenAI は、本人確認などを使う枠組みの試験運用と、1,000万ドルの API クレジットの提供を示した。
- 2026年4月14日 OpenAI、Trusted Access for Cyber の拡大を発表:OpenAI は、審査を通過した数千人の個人と数百のチームへ広げ、GPT-5.4-Cyber をまず審査済みの相手に限って出すとした。
- 2026年4月16日 OpenAI「GPT-Rosalind」を発表:OpenAI は、ライフサイエンス向けのモデルを、まず米国の適格な Enterprise 顧客に審査制で提供するとした。
- 2026年5月29日 OpenAI「Rosalind Biodefense」を発表:OpenAI は、開発者向けの取り組みを始め、選定した米国政府機関と同盟国の関係機関へのアクセスも広げるとした。
- 2026年6月2日 米国大統領令「Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security」:米国大統領は、サイバー能力の基準で指定した最先端のモデルを早く使える trusted partners を開発者と政府が協力して選ぶことなどを含む、任意の枠組みの設計を求めた。
- 2026年6月9日 Anthropic「Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」を発表:Anthropic は、Claude Mythos 5 の提供を当初は Project Glasswing の提携先などに限り、trusted access のプログラムを計画しているとした。
- 2026年6月22日 OpenAI「Daybreak」の拡大を発表:OpenAI は、日本を含む各国や EU の機関と Trusted Access for Cyber の提携を結んだと明らかにした。
- 2026年8月10日 OpenAI「Expanding Daybreak as the Cyber Defense Window Narrows」を発表:OpenAI は、Daybreak に Blue と Red の2つの段階を設け、GPT-5.6-Cyber を導入した。
- 2026年9月15日 Anthropic「Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1」を発表:Anthropic は、Claude Mythos 5.1 を2つの trusted access のプログラムで提供するとした。
- 2026年9月17日 Anthropic「Introducing the Life Sciences Verification Program」を発表:Anthropic は、ライフサイエンスの専門家向けのプログラムをベータ版として始め、まずチームと機関を対象とするとした。
- 2026年10月6日 Anthropic「Expanding the Cyber Verification Program」を発表:Anthropic は、Project Glasswing と元のプログラムを統合し、3つの段階に分けた。
- 2026年10月24日 英国政府「Introducing the AI Biosecurity Lab」を発表:英国政府は、OpenAI の trusted access の提供などを受ける組織 AI Biosecurity Lab の設立を発表した。
トラステッドアクセスに関する事例と試験の結果
Anthropic の提携先が脆弱性12.9万件以上を発見
Anthropic は、重要なソフトウェアを守る組織に Claude Mythos を提供する Project Glasswing を2026年4月に始めた(※3、※8)。同社によると、提携先は4月から7月までに、確かめられた脆弱性を少なくとも12万9,000件見つけた。
同社自身のオープンソースの調査でも、4月から10月までに5,500件を見つけた。これらのうち、深刻度が「重大」か「高」とこれまでに評価されたものは3万3,000件を超える。数字は33件の提携先の報告などによる部分的なものだ。同社は実際より少ない可能性が高いとし、本当の影響はこの数字の少なくとも5倍になるとみている(※3)。
Anthropic の試験では、プログラムの段階で遮断の数に差
Anthropic は、Claude Opus 5.5 を、計画から実行まで複数の手順を踏むサイバー攻撃の評価「CyScenarioBench」で試した。プログラムの段階ごとに10の課題を5回ずつ、計50回行った(※3)。
- プログラムの外:どの課題も最初の指示で遮断された。
- Defense Access:50回のうち46回が途中で遮断され、残る4回は成功した。
- Red Team Access:遮断はなく、34回を完了した。同社は、安全対策なしの成功率と実質的に同じとしている。
この試験は Anthropic 自身によるものだ。同社はこの結果から、高度なサイバー能力をより広い守る側に安全に提供できるという確信を得たとしている。
OpenAI は日本を含む各国と Trusted Access for Cyber で提携
OpenAI は2026年6月の発表で、その前の1か月間に Trusted Access for Cyber の提携を結んだ相手を挙げた。相手はオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、日本、韓国と、EU のサイバーセキュリティ機関 ENISA などの EU の機関だ(※13)。発表には、提携の個別の中身は書かれていない。
OpenAI は生物防御で政府機関にも GPT-Rosalind の提供を拡大
OpenAI は2026年5月、公衆衛生や生物防御の任務を支える、選定した米国政府機関と同盟国の関係機関に GPT-Rosalind の提供を広げた。例として挙げたのは、ローレンス・リバモア国立研究所による医療対抗措置(ワクチンや治療薬など)の候補の設計と評価の支援だ。同社は5月の発表で、ジョンズ・ホプキンス応用物理研究所も、このモデルを自らのタンパク質工学の基盤に組み込む予定だと書いた(※19)。
トラステッドアクセスで残る制限と注意点
審査を通っても、すべての用途が開くわけではない。Anthropic の Red Team Access でも、ランサムウェアの展開や物理的なシステムの破壊など、身体的な危害や大規模な混乱につながりうる操作はその場で遮断される(※3)。OpenAI も、trusted access の利用者に利用ポリシーと利用規約を守るよう求めている(※5)。
トラステッドアクセスだけで悪用を防げるわけではない。OpenAI は2025年12月の発表で、審査済みのアクセスのような単一の対策だけには頼れないとした(※1)。同社は2026年8月の発表で、安全対策をゆるめて動かすモデルには通常の利用を超えるリスクがあるとも書いた。このリスクは、悪用によるものと、モデルが人の意図からずれて動くことによるものだ(※11)。
審査の決め方は、プログラムによって同じではない。OpenAI は2026年4月の発表で、防御の担い手を中央の1か所で決めるのは現実的でも適切でもないとした。同社は明確で客観的な基準を使う方針を示している(※6)。Anthropic の Specialized Access のように、政府が審査に加わる段階もある(※3)。
セキュリティに関わる作業のすべてに申請が要るとは限らない。Anthropic の場合、一般に公開しているモデルは、コードの見直しや既知の問題の修正などに引き続き使える。自分たちが持つソースコードの脆弱性探しや、セキュリティの警告の仕分けも同様だ(※3)。
トラステッドアクセスに関連する用語
- Defender’s Window:攻撃に使える高度なAIが広く出回る前に、守る側がAIで欠陥を見つけて直し、守りを固められる限られた期間のこと。
- AIモデルの輸出規制:高性能なAIモデルを外国へ渡すことや外国人に使わせることを、政府が安全保障などを理由に許可制などで制限すること。
トラステッドアクセスに関する出典
※1 OpenAI「AI の能力進化に対応したサイバーレジリエンスの強化」(2025年12月10日)
※2 OpenAI「ライフサイエンス研究向け GPT-Rosalind」(2026年4月16日)
※3 Anthropic「Expanding the Cyber Verification Program」(2026年10月6日)
※4 Anthropic「Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1」(2026年9月15日)
※5 OpenAI「Trusted Access for Cyber のご紹介」(2026年2月5日)
※6 OpenAI「次世代のサイバー防衛を支える信頼性の高いアクセス」(2026年4月14日)
※7 OpenAI「ChatGPT Agent System Card」(2025年7月17日)
※8 Anthropic「Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」(2026年6月9日)
※9 英国政府(Cabinet Office)「Introducing the AI Biosecurity Lab」(2026年10月24日)
※10 The White House「Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security」(2026年6月2日)
※11 OpenAI「Expanding Daybreak as the Cyber Defense Window Narrows」(2026年8月10日)
※12 OpenAI「OpenAI Daybreak – Trusted Access for Cyber overview」
※13 OpenAI「Daybreak: Tools for securing every organization in the world」(2026年6月22日)
※14 OpenAI「Rosalind」
※15 Anthropic「Introducing the Life Sciences Verification Program」(2026年9月17日)
※16 Anthropic「What is the Life Sciences Verification Program?」
※17 Google DeepMind「Fairwind Program」
※18 Google「Gemini 4 Carbon: our next frontier model」(2026年10月28日)
※19 OpenAI「Rosalind Biodefense で社会のレジリエンスを強化する」(2026年5月29日)




