AIモデルの輸出規制(Export Controls on AI Models)とは・意味、対象・事例

最終確認日:2026年10月26日
AIモデルの輸出規制とは?
AIモデルの輸出規制とは、高性能なAIモデルを外国へ渡すことや外国人に使わせることを、政府が安全保障などを理由に許可制などで制限すること。英語では「export controls」と言う。Anthropic も、自社のモデルにかけられた措置をこの語で説明している(※9)。
米国の商務省の産業安全保障局(BIS)は2025年1月の規則で、すでにあった先端の半導体の規制を広げるとともに、一部の高性能なAIモデルの重みを新たに規制の対象にした(※4)。重みは、AIモデルが学習で得た値の集まりで、モデルの中身にあたる。
2026年6月には、米国政府が Anthropic の「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」に輸出規制をかけ、外国人による利用を止めるよう Anthropic に求めた(※8、※9)。
AIモデルの輸出規制の対象
米国の2025年1月の規則は、BIS が改める輸出管理規則(EAR)に、AIモデルの重みの決まりを加えた(※4)。
2025年1月の規則は大規模モデルの重みの国外移転を原則許可制に
BIS の規則「Framework for Artificial Intelligence Diffusion」は、次のような決まりを設けた(※4)。
- 学習に10の26乗回以上の演算を使ったAIモデルの重みを、新しく設けた区分「ECCN 4E091」に加えた。ECCN は、輸出規制の品目を分ける番号だ。演算には、学習のあとに行う追加の学習も含む。
- 重みを公開したモデルは、規制の対象から外した。このようなモデルは、オープンウェイトのモデルと呼ばれる。重みを公開したモデルのうち最も高性能なものより性能が低いモデルも、対象から外した。
- 対象の重みを外国へ渡すときは、行き先を問わず許可が要るとした。ただし本社か最終的な親会社の本社が19の国・地域(米国と、日本を含むほかの18の国・地域)にある企業などへ渡すときは、許可が要らない例外を設けた。この例外は19の国・地域の外にある拠点へ渡すときにも使えるが、マカオか武器の禁輸の対象国にある拠点へ渡すときには使えない。この例外を使うには、拠点が19の国・地域の中か外かを問わず、安全管理の条件を満たす施設に重みを保管することが要る。
- アプリや API を通じてAIモデルを使うことには、新しい制限をかけなかった。API は、ほかのソフトウェアからAIモデルを呼び出して使うための窓口だ。
2026年6月の米国政府の指示は外国人による2モデルの利用停止を求めた
Anthropic によると、米国政府は2026年6月12日、国家安全保障の権限を根拠に、Fable 5 と Mythos 5 について輸出規制の指示を出した。この指示は、米国の内外を問わず、外国人が2つのモデルを使うことをすべて止めるよう求めた。対象には、Anthropic で働く外国籍の社員も含まれていた(※8)。米議会調査局の資料は、この措置を商務省によるものとしている(※11)。
2026年6月の指示は、2025年1月の規則と違い、特定のモデルを外国人が使うこと自体を止めた(※4、※8)。
出典:Bureau of Industry and Security「Framework for Artificial Intelligence Diffusion」(2025年1月15日)
Bureau of Industry and Security「Department of Commerce Announces Rescission of Biden-Era Artificial Intelligence Diffusion Rule, Strengthens Chip-Related Export Controls」(2025年5月13日)
Anthropic「Statement on the US government directive to suspend access to Fable 5 and Mythos 5」(2026年6月12日)
Anthropic「Redeploying Fable 5」(2026年6月30日、7月1日更新)
以上をもとに編集部作成
AIモデルの輸出規制が生まれた背景
米国の BIS は2018年11月19日、規則案を出す前に意見を募る事前の通知を官報に載せ、輸出規制の対象にするか見極める新しい技術の分野の例にAIと機械学習の技術を挙げた(※1)。
BIS は2020年1月6日、地理空間の画像の分析を自動化するために深層畳み込みニューラルネットワークを学習させる専用のソフトウェアのうち、決められた条件をすべて満たすものを輸出規制の対象に加えた(※2)。深層畳み込みニューラルネットワークは一般に、画像の中の物を見分けるのに使われる深層学習の仕組みを指す。
BIS は2025年1月13日の発表で、AIモデルの性能が上がって使える人が増えるにつれ、悪意のある者が化学兵器や生物兵器の開発、強力なサイバー攻撃、大規模な監視を含む人権の侵害などにAIを使えるようになると説明した(※3)。規則の本文によると、悪意のある者が重みを直接手にすれば化学兵器や生物兵器の作り方の手順をモデルに出させたり、高度なサイバー攻撃をするAIエージェントを作ったりできるおそれがある。
BIS によれば、重みの持ち出しを制限しながら API などを通じた利用は認めることで、世界の利用者がAIの利点を得られる(※4)。
2026年6月の指示の対象になった Mythos 5 と Fable 5 は、元になるモデルが同じで、かけた安全対策の強さが違う(※7、※9)。Anthropic の説明では、Mythos 5 はソフトウェアの脆弱性を見つけて悪用する力でほかのどのモデルも上回り、最も熟練した人を除けばセキュリティの専門家も上回る(※9)。
Fable 5 は、元になるモデルにサイバーセキュリティなどの分野で強い安全対策をかけて、Anthropic が一般に提供したものだ(※7、※9)。Anthropic によると、6月12日の指示が出されたのは、Fable 5 の安全対策をすり抜ける方法を Amazon の研究者が見つけたという報告を政府が知ったあとだった(※9)。
AIモデルの輸出規制に関する主な出来事・ニュース
- 2025年1月15日 BIS「Framework for Artificial Intelligence Diffusion」を官報に掲載:BIS は、AIモデルの重みの規制を新たに設ける暫定最終規則を、米国の官報に掲載した。暫定最終規則は一般に、意見を募りながら先に効力を持たせる規則を指す。この規則の発効日は2025年1月13日、規則を守る義務が生じる日は2025年5月15日とされた。ただし、重みを保管する施設などの安全管理の条件は、守る義務が生じる日が2026年1月15日とされた。
- 2025年5月13日 商務省、AI Diffusion規則の撤回を発表:商務省は、2025年1月の規則を撤回すると発表した。産業安全保障担当の商務次官は、BIS の執行の担当者に、この規則を執行しないよう指示した。
- 2026年6月9日 Anthropic「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」を発表:Anthropic は、Fable 5 を一般に提供し、Mythos 5 をサイバー防御やインフラにかかわる一部の組織に提供し始めた。
- 2026年6月12日 Anthropic、米国政府の指示を受けて Fable 5 と Mythos 5 の提供を停止:Anthropic は、米国政府から輸出規制の指示を受け、2つのモデルの提供をすべての利用者に対して止めると発表した。
- 2026年6月30日 Anthropic、Fable 5 と Mythos 5 の輸出規制の解除を発表:Anthropic は、2つのモデルにかけられた輸出規制が、この日に解かれたと発表した。
- 2026年7月1日 Anthropic、Fable 5 の提供を世界で再開:Anthropic は、Fable 5 を世界の利用者に向けて再び提供し始めた。
AIモデルの輸出規制に関する事例
Anthropic は政府の指示に従って提供を止め、反対の考えも示した
Anthropic は、2026年6月12日の米国東部時間の午後5時21分に、政府から指示を受け取った。同社によると、指示の書面には、国家安全保障上の懸念の具体的な中身は書かれていなかった(※8)。
Anthropic は、指示に従って提供を止めたうえで、反対の考えも示した。同社は、限られた範囲で安全対策をすり抜けられる可能性が見つかったことは、数億人が使う商用のモデルを回収する理由にならないと主張した。同社は、同じ基準を業界全体に当てれば、最先端のモデルを作るすべての会社で新しいモデルの提供がほぼ止まるとみている(※8)。
Anthropic は規制の解除までに政府と証拠を見直し、分類器を訓練
Anthropic は、政府や Amazon などと、報告と証拠を見直した。同社の試験では、Claude Opus 4.8 や GPT-5.5 など、Fable 5 より能力の低い多くのモデルも、報告にある同じ脆弱性を見つけられた(※9)。
Anthropic は、政府と協力して、報告にある振る舞いを止める、改良した安全分類器を訓練した。安全分類器は、危険なおそれのある依頼や出力を見分けて止める、小型のAIの仕組みだ。Anthropic によると、新しい分類器は、報告にある手法を99%を超える割合で止める。Fable 5 への依頼が止められたときは利用者に知らされ、依頼は Claude Opus 4.8 に回される(※9)。
Anthropic は、新しい分類器のために、ふだんのコーディングやデバッグの依頼が誤って止められることも増えるとしている(※9)。
輸出規制の解除後も Mythos は限られた組織だけが使う
Mythos 5 の提供は、米国政府の6月26日の承認を受けて、一部の米国の組織に限って再開された。Anthropic は、サイバー防御の取り組み「Project Glasswing」の国内外の参加組織に提供を広げるため、政府との調整を続けるとした(※9)。2026年9月15日に発表された後継の Mythos 5.1 は、発表の時点では一部の米国の組織だけが使えた(※12)。
Anthropic は10月6日、セキュリティの専門家向けの確認の制度「Cyber Verification Program」を広げた。同社によると、どの段階でも Mythos 5.1 を使える。サイバーの用途を止める仕組みが最も少ない段階は、今は米国政府と協力して、すべての組織を詳しく審査している(※13)。
米議会調査局の資料が紹介する規制の狙いと解除の不透明さへの懸念
米議会調査局の資料によると、商務省の輸出規制は、中国政府が Mythos を使えるようになるおそれから国家安全保障を守るためのものだったとみる分析者がいる。同じ資料は、規制の解除に至る過程が不透明だったと懸念する声もあるとしている(※11)。
AIモデルの輸出規制の英語での言い方・略語
| 英語の言い方 | 意味 | 使っている主体 |
|---|---|---|
| export controls | 輸出規制。Fable 5 と Mythos 5 にかけられた措置もこう呼ばれた | Anthropic(※9) |
| export control directive | 輸出規制の指示。2026年6月12日に Anthropic が受けた措置 | Anthropic(※8) |
| export controls on certain AI models | 一部のAIモデルへの輸出規制。2026年6月の措置を指す | 米議会調査局(※11) |
| AI Diffusion Rule | 2025年1月の規則の呼び名。規則の題は「Framework for Artificial Intelligence Diffusion」 | BIS(※4、※5、※6) |
| model weights | モデルの重み。AIモデルが学習で得た値の集まり | BIS(※4) |
| closed-weight / open-weight | 重みを公開していないモデル/公開したモデル | BIS(※4) |
| ECCN 4E091 | 2025年1月の規則が設けた、AIモデルの重みの規制の区分。ECCN は、輸出規制の品目を分ける番号 | BIS(※4) |
| EAR(Export Administration Regulations) | 輸出管理規則。BIS が改める、米国の輸出規制の決まり | BIS(※4) |
| foreign national | 外国人。2026年6月の指示は、米国の内外を問わず外国人の利用を対象にした | Anthropic(※8) |
日本の利用者への影響と2025年の規則の今の扱い
AIモデルの輸出規制は、日本の利用者が使うサービスにも直接響くことがある。2026年6月の指示は外国人の利用を対象にしていたが、命令がすぐに効力を持ち、利用者の国籍をその場で確かめる信頼できる方法もなかったため、Anthropic は2つのモデルをすべての利用者に対して止めた(※9)。Anthropic は、止めるのは2つのモデルだけで、ほかのモデルは影響を受けないとした(※8)。
業務で特定の最新のモデルに頼っている場合は、ほかのモデルに切り替えて作業を続けられるようにしておくと良いだろう。
輸出規制のニュースを読むときは、どの段階の話かを分けて読むことが大切だ。2025年1月の規則は、守る義務が生じる日の前の2025年5月に撤回が発表され、執行されないことになった(※5)。
BIS は2025年5月の発表で撤回を正式にする規則を出すとしていたが(※5)、2025年1月の規則が設けた、一部の先端の半導体などを世界のどこへ渡すにも許可が要るという決まりは、2026年7月時点でも EAR に残っている(※6、※10)。BIS は2026年7月14日の官報の規則で、この決まりを執行している範囲を示した。
2025年5月13日と2026年5月31日の指針に沿って、BIS が執行しているのは2つの場合だけだ。1つは、武器の禁輸の対象国など米国が懸念を持つ国・地域へ渡す場合で、米国が輸出で優遇する国・地域にも入るところは除く。もう1つは、本社か最終的な親会社の本社が武器の禁輸の対象国かマカオにある企業へ渡す場合で、その企業がどこにあるかは問わない。
同じ規則で、BIS はアラブ首長国連邦(UAE)を優遇する国・地域に移した。それでも BIS は、UAE へ渡す場合と UAE の中で渡す場合の執行を続ける。除くのは、UAE の政府機関や認められた企業へ渡すときだ(※10)。
AIモデルの重みの決まり(ECCN 4E091)も、2026年10月の時点で EAR の条文に残っている(※14)。2026年6月の措置は、Anthropic という1つの会社の2つのモデルに向けた指示だった(※8、※9)。
AIモデルの輸出規制に関する出典
※1 Bureau of Industry and Security「Review of Controls for Certain Emerging Technologies」(2018年11月19日)
※2 Bureau of Industry and Security「Addition of Software Specially Designed To Automate the Analysis of Geospatial Imagery to the Export Control Classification Number 0Y521 Series」(2020年1月6日)
※3 Bureau of Industry and Security「Biden-Harris Administration Announces Regulatory Framework for the Responsible Diffusion of Advanced Artificial Intelligence Technology」(2025年1月13日)
※4 Bureau of Industry and Security「Framework for Artificial Intelligence Diffusion」(2025年1月15日)
※5 Bureau of Industry and Security「Department of Commerce Announces Rescission of Biden-Era Artificial Intelligence Diffusion Rule, Strengthens Chip-Related Export Controls」(2025年5月13日)
※6 Bureau of Industry and Security「Guidance Regarding Enforcement of License Requirements for Advanced Computing Items for Entities Headquartered in Country Group D:5 and Macau」(2026年5月31日)
※7 Anthropic「Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」(2026年6月9日)
※8 Anthropic「Statement on the US government directive to suspend access to Fable 5 and Mythos 5」(2026年6月12日)
※9 Anthropic「Redeploying Fable 5」(2026年6月30日、7月1日更新)
※10 Bureau of Industry and Security「Enhanced Favorable Treatment for the United Arab Emirates Under the Export Administration Regulations」(2026年7月14日)
※11 Congressional Research Service「Federal Government and Anthropic: Considerations for AI Innovation and Competition」(2026年7月31日更新)
※12 Anthropic「Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1」(2026年9月15日)
※13 Anthropic「Expanding the Cyber Verification Program」(2026年10月6日)
※14 National Archives「Electronic Code of Federal Regulations, 15 CFR 740.27」




