段階的開示(プログレッシブ・ディスクロージャー/Progressive Disclosure)とは・意味、由来・仕組み

最終確認日:2026年10月31日
段階的開示(プログレッシブ・ディスクロージャー)とは?
段階的開示(プログレッシブ・ディスクロージャー)とは、最初は要点だけを示し、詳しい内容は必要になったときに示す設計の考え方のこと。英語では「Progressive Disclosure」と書く。この語は画面の設計で長く使われてきた。Nielsen 氏の解説では、高度な機能やあまり使わない機能を別の画面に分け、ソフトウェアを覚えやすくして誤りを減らす手法を指す(※1)。
生成AIの分野では、AIエージェントが読む情報の量を抑える設計の名前として使われている。AIモデルが答えを作るときに読む情報の全体をコンテキストと呼び、それを選んで整える技術はコンテキストエンジニアリングと呼ばれる。
Anthropic の説明では、エージェントはスキルとツールの短い説明だけを見て、全体を読み込むのは必要なときだけだ(※3)。OpenAI も ChatGPT と Codex のスキルについて、名前と説明から始め、使うと決めたときに指示の全文を読み込むと説明している(※4)。
Anthropic の日本語の文書は、この語を「段階的開示」と訳している(※5)。Microsoft の日本語の文書には「段階的な開示」と「プログレッシブ開示」の両方の表記がある(※6)。
段階的開示の由来と広まった経緯
Star というゼロックスのコンピューターの設計者らは、1989年の論文で、Star が用いた原則として progressive disclosure を挙げた。Johnson 氏らによると、利用者が求めるか必要になるまで細部を隠す原則だ(※2)。
Nielsen 氏は2006年の解説で、この手法は30年を超える歴史を持つと書き、印刷の画面を典型的な例に挙げた。部数などの少ない選択肢を先に出し、拡大・縮小などのあまり使わない設定は別の画面に分ける形だ(※1)。
AIエージェントでは、Anthropic が2025年9月の記事でこの語を使った。エージェントが自分で探しながら、関係する情報を少しずつ見つけていく動きを指す言葉だった(※7)。同社は翌月の Agent Skills の記事で、段階的開示をスキルの中心の設計原則と位置づけた(※8)。
AIエージェントでこの語が使われる場面の1つが、ツールなどの長い一覧の扱いだ。AIのアプリを外部のデータや道具とつなぐ規格である MCP の作業部会は、長い一覧を読み込むとモデルが混乱して選び間違えることがあり、トークンの消費が増えて費用と応答の遅れにつながると整理している(※9)。トークンは、AIモデルが文章を処理するときの単位だ。
AIエージェントで段階的開示が働く仕組み
エージェントスキルの3段階の読み込み
エージェントスキルの標準の仕様は、読み込みの段階ごとに分量の目安を示している。仕様によると、スキルはこの段階を生かす形で組み立てるとよい(※10)。
仕様は、中心のファイルである SKILL.md を500行未満に収め、詳しい参考資料は別のファイルに移すよう求めている(※10)。Anthropic は、スキルの形を目次から個別の章、詳しい付録へと進む手引書にたとえた。同社によると、ファイルを読む道具とプログラムを実行する道具を持つエージェントなら、作業中にスキル全体を読む必要はない(※8)。
必要な分だけ読み込むツールの定義
ツールの定義にも同じ考え方が使われている。Anthropic は2025年11月の記事で、ツールをコードとしてファイルに置き、エージェントが必要な定義だけを読む方法を示した。
ツールを探す専用のツールを足す方法も挙げている(※11)。同社の別の記事によると、「Tool Search Tool」を使う場合は、ほかのツールの定義を後から読み込むように指定できる。最初に見えるのはこの検索用のツールと、常に読み込むと指定したツールで、作業に要るツールはその都度見つける(※12)。
リポジトリの文書は小さな入り口から段階的に読ませる
リポジトリ(コードや文書を置く保管場所)の文書にも、この語が使われている。OpenAI は、エージェントが小さく安定した入り口から始め、次にどこを見ればよいかを教わる形を progressive disclosure と呼んだ(※13)。
画面の設計とAIエージェントでの段階的開示の違い
同じ語でも、情報を受け取る相手と、次の情報を開くきっかけが異なる。
| 観点 | 画面の設計(※1) | AIエージェントのスキル(※10、※14) |
|---|---|---|
| 受け取る相手 | ソフトウェアやサイトの利用者 | AIエージェント |
| 先に示すもの | 重要な少数の選択肢 | すべてのスキルの名前と説明 |
| あとで示すもの | 専門的な選択肢 | SKILL.md の本文と、付属のファイル |
| 次を開くきっかけ | 利用者が求めたとき | スキルを使い始めるとき、付属のファイルが必要になったとき |
| 説明されている利点 | 覚えやすさ、使う効率、誤りの少なさが高まる | 読まないファイルは、必要になるまでコンテキストのトークンを消費しない |
段階的開示に関する主な出来事・ニュース
- 2025年9月29日 Anthropic「Effective context engineering for AI agents」を公開:Anthropic は、エージェントが探索しながら関係する情報を少しずつ見つける動きを progressive disclosure と呼んだ。
- 2025年10月16日 Anthropic「Equipping agents for the real world with Agent Skills」を公開:Anthropic は、progressive disclosure を Agent Skills の中心の設計原則と説明した。
- 2025年11月4日 Anthropic「Code execution with MCP」を公開:Anthropic は、progressive disclosure の項で、ツールの定義を必要なときに読む方法を示した。
- 2026年2月11日 OpenAI「Harness engineering」を公開:OpenAI は、リポジトリの文書を整理した形が、エージェントの progressive disclosure を可能にすると説明した。
- 2026年9月11日 OpenAI「Rethinking skills and prompts for GPT-6 Astra」を公開:OpenAI は、役に立つスキルの目印の1つに progressive disclosure を挙げた。
- 2026年9月21日 MCP の集まりを「Progressive Disclosure」に改称:MCP の「Primitive Grouping」の集まりは、この名前に改まり、関心を共有するグループ(Interest Group)から作業部会(Working Group)に変わった。
- 2026年10月22日 Anthropic「Building agents: When to fold subagents into your main agent loop」を公開:Anthropic は、調整役のエージェントが専門のエージェントを束ねる設計と比べ、1つのエージェントがスキルとツールを段階的に読み込む設計のほうが、多くの場合により効果的になりうると述べた。
段階的開示に関する事例・研究
Claude Code では、上位モデル向けの指示を80%超削減
Anthropic によると、同社はより高度なモデル向けの Claude Code のシステムプロンプトを80%を超えて減らした。システムプロンプトは、AIの役割や振る舞いをあらかじめ指定する指示のことだ。減らした分には、スキルとツールの段階的な開示に関わるものが含まれる。
同社は、段階的開示によって1つのエージェントでさまざまな作業をこなせるようになり、作業を別のエージェントに分けてきた主な理由がなくなるとも述べている。ただし同社は、別のエージェントにも使いどころは残ると断っている。コンテキストの膨張で性能の低下が測定できるとき、終われば捨てられる新しいコンテキストで複数の作業を並行して進めるとき、1つのエージェントが適切なツールを選びにくいときやシステムプロンプトの指示が食い違うときに使うよう、同社は勧めている(※3)。
Anthropic の例では、トークンの使用量が85%減少
Anthropic が示した例では、50個を超える MCP のツールの定義だけで約7万2,000トークンになり、作業の前に消費するコンテキストは全体で約7万7,000トークンだった。同社によると、Tool Search Tool を使うと全体で約8,700トークンに収まり、トークンの使用量は85%減る(※12)。
OpenAI の開発チームでは、AGENTS.md を目次として活用
OpenAI が Codex で製品を作ったチームの例では、1つの大きな AGENTS.md に指示を集める方法はうまくいかなかった。理由の1つに、大きなファイルが作業やコード、関係する文書の場所を奪うことが挙がっている。チームは約100行の AGENTS.md を目次として使い、詳しい内容は docs のフォルダに置いた(※13)。
スキルの本文を平均39%圧縮したという研究も
Yudong Gao 氏らの論文は、公開された5万5,315件のスキルを調べた。26.4%には使う場面を示す説明がなく、本文の60%超は実行に結び付かない内容だったという。
著者らは、中核の決まりと必要なときに読む補足を分ける手法を含む「SkillReducer」を作った。600件のスキルなどで評価した結果、説明を平均48%、本文のトークンを平均39%圧縮した。機能の品質は元のスキルより2.8%上がったと報告している(※15)。
段階的開示を使うときの注意
先に読まれる説明が、あとの読み込みを左右する。OpenAI は悪い説明の例として、データベースの移行のときだけ使わせたいスキルが、データベースに触れる作業のたびに使われやすくなる書き方を示した(※16)。Anthropic も、スキルとツールの説明が適切な場面で働くことを、1つのエージェントで作業を回す設計に要る規律の1つに挙げている(※3)。
スキルを増やしすぎると、説明の一覧にも影響が出る。OpenAI によると、Codex の最初の一覧は、既定ではモデルのコンテキストの2%までを使う。スキルが多いと説明が短くなり、一覧に載らないスキルが出ることもある(※4)。
参照を深くしすぎることにも注意が要る。Anthropic の手引きによると、参照されたファイルからさらに参照されたファイルを、Claude が一部しか読まないことがある。そのため同社は、SKILL.md から直接たどれる1段にとどめるよう勧めている(※14)。
探しながら読む方法には、速さの面の引き換えもある。Anthropic によると、実行中に探す方法は、先に計算しておいた情報を取り出すより遅い。適切な手引きがないと、エージェントがツールを誤用したり、行き止まりを追ったり、重要な情報を見落としたりして、コンテキストを浪費することもあるという(※7)。
画面の設計については、Windows 7 向けに作られた Microsoft の手引きが、利用者は見えないものを存在しないと思い込むことがあると指摘している(※17)。Nielsen 氏によると、開示の段階が2つを超える設計は使いやすさが低いことが多く、利用者が段階の間で迷いやすい(※1)。
段階的開示に関連する用語
- エージェントスキル:仕事の手順や専門の知識をファイルにまとめ、AIエージェントが必要なときに読み込んで使えるようにする仕組み。
- コンテキストエンジニアリング:AIモデルが答えを作るときに読む情報の全体を、作業の段階ごとに選んで整える技術。
- AGENTS.md:AIのコーディングエージェントにプロジェクトの決まりや作業の手順を伝えるため、リポジトリに置くファイル。
- MCP:AIのアプリを外部のデータや道具とつなぐための共通の規格。
段階的開示に関する出典
※1 Jakob Nielsen「Progressive Disclosure」(2006年12月3日、Nielsen Norman Group)
※2 Jeff Johnson ほか「The Xerox Star: A retrospective」(1989年9月、IEEE Computer。GUIdebook の転載)
※3 Anthropic「Building agents: When to fold subagents into your main agent loop」(2026年10月22日)
※4 OpenAI「Build skills | ChatGPT Learn」
※5 Anthropic「Agent Skills(日本語版)」
※6 Microsoft「エージェント のスキル」(2026年10月23日更新)
※7 Anthropic「Effective context engineering for AI agents」(2025年9月29日)
※8 Anthropic「Equipping agents for the real world with Agent Skills」(2025年10月16日、2025年12月18日更新)
※9 Model Context Protocol「Progressive Disclosure Charter」(2026年6月18日、9月21日改称)
※10 Agent Skills「Specification」
※11 Anthropic「Code execution with MCP: Building more efficient agents」(2025年11月4日)
※12 Anthropic「Introducing advanced tool use on the Claude Developer Platform」(2025年11月24日)
※13 OpenAI「Harness engineering: leveraging Codex in an agent-first world」(2026年2月11日)
※14 Anthropic「Skill authoring best practices」
※15 Yudong Gao ほか「SkillReducer: Optimizing LLM Agent Skills for Token Efficiency」(2026年3月31日、6月24日改訂、arXiv)
※16 OpenAI「Rethinking skills and prompts for GPT-6 Astra」(2026年9月11日)
※17 Microsoft「Progressive Disclosure Controls – Win32 apps」(2022年4月29日更新)
段階的開示に関連する記事
- エージェントスキル(Agent Skills)とは・意味、仕組み・由来・事例(2026.10.27)




